ボート界の“笑わない男”が、満面の笑みを浮かべていた。23年6月23日、鳴門ボート最終日12Rは、森高一真(45=香川)がインから逃げて優勝を飾った。99年デビュー。SG1度、G1・4度制覇を含め数々のタイトルを取りながらも、出走回数も多い準地元地区の鳴門では不思議と優勝に縁がなかった。14度目の優出にしてようやくたどり着いた。安堵(あんど)の表情が笑顔につながった。
ラグビーW杯で話題になった稲垣啓太ではないが、森高も笑わない。19年11月の地元丸亀のG1周年記念を勝った時のこと。表彰式でカメラを構える報道陣から「笑顔よろしくお願いします」の呼びかけに、「それはできん」。こわもてのむすっとした表情を最後まで崩さなかった。ただ、稲垣と同様に必要以上に笑わないだけ。内面に秘めた闘志は誰にも負けないし、ユーモアも兼ね備えている。後輩の中村桃佳も「あの怖い顔でぼそっと面白いことを言うんですよ。そのギャップがたまらなく魅力的なんですよ」と話していた。森高も稲垣同様に間違いなく女性に持てるタイプだ。
その森高が鳴門のVで笑ったのにはわけがある。予選トップ通過で準優12Rを逃げ切り、優勝戦の前日に鳴門への熱い思いを語ってくれた。
「わしは鳴門に育ててもらったようなもんなんや。生まれた場所も鳴門の隣町の引田町やし、子供の頃におじいちゃんに最初に連れていってもらったレース場も鳴門やった。やんちゃしてたけど、鳴門でレースを見てレーサーになりたいと思ったんや。デビュー戦もここやったからな。まあ1回ぐらいは勝たせてもらってもええやろ」。99年11月11日のデビュー戦だけでなく、その節で初白星を挙げたのも鳴門。01年2月には四国地区選でG1初出場、初勝利を挙げたのも鳴門だった。1枠で迎えた優勝戦も2度あった。11年7月の1枠は5コースの白水勝也の差しに屈した。その白水が、今回の優勝戦に4枠に乗ってきた。因縁めいていて現場の記者間では心配の種にはなっていたが、それも杞憂(きゆう)に終わった。
笑わない男は、決して無愛想ではない。好きな競輪や愛弟子についての話には乗ってくれる。長年、弟子は取らず分け隔てなく若手指導にも熱心だった。原村拓也に関しては、クビ寸前の危機があった窮状を見かねて自ら誘導して弟子入りさせた。女子レーサーの谷口佳蓮も「どうしても強くなりたい」という熱い思いをくみとって弟子に取り、勝ち星を量産させた。
義理と人情に厚い、“昭和”を感じさせる男だ。そんな男の満面の笑みは、男でもほれてしまう。【神田成史】























