KEIRINグランプリ2016(GP)がきょう30日、東京・立川競輪場で激戦の時を迎える。平原康多(34=埼玉)は、武田豊樹(42=茨城)との鉄の絆で初戴冠する。

 「人」という文字は左右が支え合ってできている。「絆」とは断つことができない人と人との結びつき。車輪と車輪が、肉体と肉体が交錯する人間模様-。競輪という名の一本道は極めれば、ここに至る。

 近代競輪はライン戦によって熟成された。競馬をはじめ、他のギャンブルスポーツには存在しないライン戦=チームスピリッツだ。コンクリートのバンク上のガチンコバトル。ラインを組めば強力な敵も倒せる確率は高まる。風圧と戦いながら前で駆ける選手(自力)を追う選手(番手)は、襲い掛かる敵に体を張って徹底抗戦する。後ろを信じて振り返ることなく前で駆ける者と、おとこ気でそれを守る者。落車もある。

 平原 言葉で説明するのは難しい。互いに迷うことなく信頼する。それは語るものではないので。

 絆は紡がれていく。前後が決定したのは決戦9日前のGP前夜祭。久々に顔を合わせた時にあうんの呼吸で決した。昨年GPでは武田が前で平原が番手だったから、という貸借関係は2人には存在しない。

 平原 武田さんとは数え切れないくらい連係して勝ったり、負けたり。力を出し尽くしてくれることを分かっている。勝てば最高だし、負けても悔いはない。

 G1タイトルを量産してきた2人には試練と苦闘の1年だった。ともに落車によるダメージのため低迷しGP最終切符を懸けた最後のG1競輪祭まで無冠。負ければ終わり。2人同時にGP出場権を得るには決勝で1、2着になるしか道はなかった。まくり快勝の平原を武田が巧追走してワンツーフィニッシュ。劇的な走りで最後の最後に大舞台へとやってきた。

 平原 すごいシナリオですよね。あれだけはすごい(笑い)。前半戦からGP出場をイメージできなかった…。武田さんのおかげ。

 年齢も生まれ育った環境も歩んできた道も異なる。前を託された者は競輪選手を父に持ち、それを守る者は元スピードスケートの五輪代表選手-。すべてを超越して信頼という絆で結ばれた。人生に究極の絆を築くことが果たして幾度、あるだろうか。真っ先に最終コーナーを抜けて、ゴールラインが視界に飛び込んだ瞬間に恨みっこなしの「仁義なき戦い」だ。

 平原のフィールド・オブ・ドリームスは最強と認める武田の前で武田に勝つこと。優勝賞金1億160万円が、すべてではない。

 平原 負けたら言い訳はない。勝った人より弱いだけ。賞金はすごいが、お金のために走るわけではないし、お金に執着心はない。

 男が男を競う、車輪と車輪が競うバンクの格闘技は美しい。決戦は底冷えの午後4時30分-。平原と武田が、この1年の冷たい時を後方へ置き去り、新たな年へ特別な時を刻む。【大上悟】