40歳だった18年にJ2水戸で練習生を経て”ほぼ0円”でプロ契約。「0円Jリーガー」として活躍中のFW安彦考真(42=YSCC横浜)が、自身の感じるスポーツ界などの疑問を語ります。

  ◇  ◇  ◇

ようやくJ3が開幕した。

当初の予定より3カ月以上遅れての開幕戦はリモートマッチ(無観客試合)となったが、それ以外にも今までとはまったく異なる試合開催だった。


6月27日に行われたJ3相模原対YS横浜。ボールを競り合う相模原MF松田(左)とYS横浜MF池ケ谷(撮影・河田真司)
6月27日に行われたJ3相模原対YS横浜。ボールを競り合う相模原MF松田(左)とYS横浜MF池ケ谷(撮影・河田真司)

開幕戦はバスでの移動だったが、乗車前に全員が検温を行い、アルコール消毒を実施。もちろんマスク着用は必須だが、さらに車内換気が5分に1回のペースで行われた。

ロッカールームでは毎回消毒が行われ、水分補給はマイボトルを使用。

ロッカールームを出れば、そこでの水分補給は各自の背番号が入ったボトルを使用し、試合中は気候に関係なく、前半1回、後半1回の飲水タイムが設けられている。

ピッチ周りにある水も飲み回しをしないよう、1回で飲みきれる大きさの水にするなど工夫がされている。

その他、監督からのコーチングや選手間でのコーチング、レフェリーとのやりとりなど、普段はそこまで耳に入らなかった、ささいなこともダイレクトに届くようになった。

特に、スタジアムは練習会場などと異なり声の跳ね返りがあるので、一言一言がクリアに聞こえる。


無観客で行われた相模原対YS横浜(撮影・河田真司)
無観客で行われた相模原対YS横浜(撮影・河田真司)

僕は開幕戦をベンチで終えることになったが、その分いろいろなことに気がつけた。

コロナ以前では余りに気にならなかったことがコロナ後ではハッキリとその違いを感じることになった。

それは、選手が発する「独り言のような文句」だ。

選手はワンプレーワンプレーに一喜一憂することはそんなに多くないが、どうしても自分の意図と仲間の意図が合わないときに小声で"文句"を言うときがある。

これは仲間に何かを伝えたくて発している言葉ではなく、無意識の言動だ。

このリモートマッチになったことで、そんなささいな声も選手は拾うことになる。

その声の多くは叱咤(しった)激励という仲間を鼓舞するものでないため、ネガティブな言葉が多い。

そのネガティブな言葉を拾ってしまう選手は、その後のプレーに大きな影響が出てしまうことがある。


みなさんも考えてもらいたい。

日常の中で、無意識につぶやいていることがないか。

例えば、車の運転中に横入りをされたり、前の車が遅かったなどの場面に遭遇したとき、ふと出てしまうその人の人間性がある。

特に助手席に乗っているときに、運転している人から思いもよらない暴言を聞いて、「この人こんなこと言うんだ」と思ったりしたことはないだろうか。

サッカー選手も人だ。

自分の思い通りにならないときに、無意識のつぶやきをしてしまう。

それは、自覚なき言動であることが多い。

ただ、それが本田選手や長友選手の場合、そんな無意識の言動もしないのではないかと想像した。

彼らが発する言葉はそこに「意味」を持たせていると思う。

伝えたいことがあるならば、そのときに必要な言葉を選び、伝えた言葉がどんな効果をもたらすか、何が目的なのかを明確にしているはずだ。


相模原対YS横浜 新型コロナウイルスに関わる医療従事者に向け感謝の輪を組む両チーム(撮影・河田真司)
相模原対YS横浜 新型コロナウイルスに関わる医療従事者に向け感謝の輪を組む両チーム(撮影・河田真司)

僕らは仲間であっても自覚なき攻撃をしてしまうときがある。

ボソッと声が聞こえるときの何とも言いようのない感じを受けたことがある人は多いと思う。

ふとしたときに出てしまう言葉の重み。

突発的な何かで人は本性を現す。

一流と呼ばれている人たちは、感情優位の言動ではなく、事実優位の言動がそこにある。

どんなときでも自分をコントロールし、感情ではなく事実で物事をきっちり捉え、その状況の改善に必要な言葉を使う。

リモートマッチが、人の本性と言葉の関係性を教えてくれた。

改めて自分の無意識の言動に意識を向けることを大事にしたいと思う。

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「0円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。18年、J2水戸と40歳でプロ契約。19年にYS横浜へ移籍。開幕戦の鳥取戦で途中出場し、ジーコの持っていたJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を上回る41歳1カ月9日でデビュー。