今や日本の期待の星となった久保建英選手。キングカズや中田英のイタリア挑戦を生で見ていた世代にしてみれば、当時の記憶がよみがえります。近年でいくと、香川のマンチェスターUへの移籍、長友のインテルや本田のACミランなどとも同等、いや、それ以上のものが…と期待して毎日のニュースを食い入るように見ています。

入団記者会見でユニホームを披露し、ビリャレアルに移籍した久保建英(左)(撮影・高橋智行通信員)
入団記者会見でユニホームを披露し、ビリャレアルに移籍した久保建英(左)(撮影・高橋智行通信員)

そんな久保選手の次の舞台がビリャレアルに決まりました。我々、アラフォーの世代はどうしてもリケルメのイメージが強く、フォルラン、カプデビラ、カソルラといった名前が出てくるチームぐらいかなと思います。今回はすでに多くのメディアでとりあげられてはおりますが、その街やチームの背景・歴史だけでなく、どんな財政状況なのかという部分にフォーカスしてお伝えすることができればと思います。

まずこのチームは1923年設立ということで、リーガが始まったのが1929年ですから、ほぼ同じくらいの歴史があるチームです。しかし1部に昇格し定着したのは2000年代に入ってからという、実はこの20年ぐらいのチームになります。有名なのはこのクラブの会長一家で、現会長のフェルナンド・ロイグ・アルフォンソがビリャレアルの産業を支えているセラミックタイルメーカーのパメサ・セラミカの会長であるのですが(それもあってスタジアム名はエスタディオ・デ・ラ・セラミカ)、このオーナーはスペインでは実業一家で有名なのです。父親がもともと牧場経営をしていたことから畜産業界で事業をスタートし、そこからスペインでは有名なスーパーマーケットであるメルカドーナを展開。当初8店舗だったメルカドーナは今や1600店舗にもなるほどの大きさで、このメルカドーナの大株主になっているのがこのロイグ家になるわけです。個人的な思惑としてみれば、バルにしかなかったバレンシアオレンジの生ジュース搾り機をスーパーに導入してスペイン全土に供給したのはこのロイグ家なのではないかと…

さて、このフェルナンド・ロイグですが、スペイン第2のスポーツでもあるバスケットのバレンシアも所有しています。簡単に言うと、ビジネスマンです。個人の推測にはなりますが、マンションやオフィスなどのセラミック・タイルで業をなしていることから、レアル・マドリードの会長であり、建設業大手ゼネコンのトップでもあるフロレンティーノ・ペレス氏ともビジネス上で親交が深く、恐らく交友があるのかと。

このクラブの予算はおおよそ160億円前後で、この2/3の約100憶円ほどがリーグの分配放映権による収入となっており、ビッグクラブは1/3ほどが放映権収入とされていますから、それとは大きな差があります。ビリャレアル市の人口が約5万人でスタジアムが2万5000人収容ですから、マーチャンダイジングにも限界があるのは言うまでもありません。収入面についてスペイン語の収支表を読み解くと、そのほとんどが選手の売却収入です。そこには当然定評があります。実はこの会長、このクラブがスペインで有名なのはユースの試合にすべて顔を出すこと。必ずアカデミーの試合には副会長・社長と共に顔を出すそうで、もうそれは大切なひな鳥を見守る親鳥の心境なのかもしれません。そんなロイグ会長が(当然といえば当然なのかもしれませんが)就任当時の1997-98シーズンに、まず初めに行ったことはなんとアカデミー組織の充実化とトレーニング場の整備、そしてチャーター機の導入だったと言われています。まさにレアル・マドリードやバルセロナが“いまでも主要投資先”としており、一番リターンの望めるアカデミー部門です。このような積み重ねが今日のチームの土台になっており、現在では登録メンバーの約1/3が下部組織出身者で占められる結果となっています。

スペイン・フットボールの考え方として、結果を残していない選手を上に引き上げることはよっぽどのことがない限りはしません。そういう意味で行けば、中堅に位置するビリャレアルで活躍することができれば、レアル・マドリードへの帰還も見えてくることから期待値は非常に大きくなります。けがだけはしないよう新シーズンの活躍を祈りたいと思います。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)