東京五輪は、大部分が無観客で開催されています。コロナがなければどれだけの盛り上がったことか。その経済効果は一体どのぐらい大きなものだったのかと、ふと考えてしまいます。イタリアの優勝で幕を閉じたサッカーの欧州選手権が一部有観客で開催され、改めてファンの“熱狂”が必要不可欠なものであることが証明されたような気がします。

そのような中で、今一番意義が問われているのは欧州サッカー連盟(UEFA)が2014年に取り入れたファイナンシャル・フェア・プレー(FFP)になります。1年ほど前になりますが、ローマの新監督になるモウリーニョ(当時はトッテナム)がこのFFPに疑問を呈しました。一度はUEFAからFFP抵触をとがめられ、2年間の欧州主要大会参加禁止処分と3000万ユーロ(約39億円)の罰金処分を受けたマンチェスター・シティですが、これを不服としてスポーツ仲裁裁判所(CAS)に異議申し立てを行ったところ、CASからは欧州主要大会参加禁止処分の撤回と1000万ユーロ(約13億円)への罰金減額となりました。誰もが首をかしげる大甘の「処分軽減」にモウリーニョは、一体どうなっているのか?ということでFFPに対して存在意義を問うたものです。しかしその後はまるで何もなかったかのような扱いに。無罪でありながら罰金が発生している点や、実際に有罪判決となり、欧州チャンピオンズリーグ(CL)・欧州リーグ(EL)への参加権利を剥奪されるチームが皆無であることは確かに疑問を感じます。

しかし、そのFFPに対して現在UEFA内で大きな見直し作業が行われていると現地で報道がありました。鍵となるのは、クラブに対して収支を合わせる義務を負わせるというよりも、高騰の一途をたどる給与と移籍金を“許容レベル”にまで引き下げること、ここにフォーカスしたほうが、市場がより活性化されることにつながるという訳です。マネーゲームを抑制できなかったことが露呈してしまった感はありますが、改めてクラブの収支面をコントロールすることが非常に難しいということは分かりました。

UEFAのリポートによると、コロナによって大きく財政損失を被っているヨーロッパサッカー界は、この2シーズンで約75億ポンド(1兆1560億円)もの損害を受けたとありました。この天文学的な数字の損失規模を考えれば、クラブに収支を合わせるように求めた当初のFFPがまったく意味をなさなくなってしまったことをUEFAも認めているということです。さらにそのリポートでは、従来のFFPに代わって新しく選手の給与と移籍金の高騰を抑えることに焦点が当てられた新プランを作成する可能性があるとのことで、選手の給与をチームの収支に見合った割合に制限する目的の「サラリーキャップ」の導入などが検討されているということでした。

スーパーリーグ構想時に改めて明確になったUEFAに対する各クラブ側からの不信ですが、現状はUEFAに従わざるをえません。新ルールを定めたところでそれに従うことに反発するクラブが出る可能性もあります。クラブのコロナによるマイナス面をサポートすることがなければ、いよいよ破産という形を取らざるを得ないクラブがでてきてしまうのではないでしょうか。

デルタ株が猛威を振るう可能性があり、本当に有観客にしてしまうことが正しいのか見えてきません。日本の状況からしても近日の収束は期待できそうになく、欧州各国が新シーズンをどう迎えるのか注目です。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)