リーガエスパニョーラが今週末開幕します。前回に続き、バルセロナの話です。

スポンサー獲得といった売上を伸ばすためのメインの手法に加えて、何かしらの権利を売却するという手法を紹介しました。日本ではまだこういった権利を販売するというところは少ないと思います。当然その権利に価値があるかどうか、売り物になるかどうかが売上になるかならないかの分岐点になりますが、どのように価値をつけるかという部分も一つクラブ運営の腕の見せ所になりそうです。

報道に出ている通り、バルセロナは強硬策に出ているような印象を受けます。サラリーキャップは、リーガが独自に2013-14シーズンから取り入れました。ファイナンシャル・フェアプレー・リーガ版とも言える「チームコスト制限ルール」です。リーグによるクラブの支出上限設定であり、リーガ財政管理の部門が見張るクラブごとの「チーム編成に使用可能な金額制限」でもあります。

各クラブが毎年春ごろにリーガに対して翌シーズンの予算を提出します。この提出された数字から、クラブ運営コストと債務返済額が引かれるということになります。このコストにはチーム運営の全てが含まれるので、実際は人件費だけでなく、例えばクラブから貸し出される選手の車や家賃費用だけでなく、家族のサポート費用など契約書に含まれるものは全てここに当てられることになります。人件費周りのことだけでなく、練習場やスタジアムの維持費、保険関連も全て含まれるということで非常に厳しく管理されています。このルールは米国のスポーツ組織運営を参考に制定されたとありました。個人的には下部リーグへの降格がない米国のリーグ方法を、完全弱肉強食とも言える欧州サッカーに持ち込んだところで、同じように効果が発揮されるかは少し疑問に感じます。

コロナ禍もあり、その損失額は2シーズンで4億ユーロとも言われています。チケット収入やグッズ収入が見込めず、売上が大きく下がったことが計算を狂わせた一つの要因にはなりますが、当然選手には契約があります。報じられているような契約途中での給与ダウンには合意できない選手が出てくることは当然と言えば当然です(試合に出ることができなくてもバルセロナの所属選手として約束された給与を維持した方が良いという判断)。この条件を飲まないからクラブから一方的に契約が切られるなどということは、基本的には認められるものではないと思います。無理矢理他の選手と高額な契約をしておきながら、後から既存の選手の給与を下げる、契約を解除する、登録しないなどという行為は暴挙ともとられかねません。そこを強行しようという行為は、クラブの資質を問われかねません。

現地の最新報道では新たにバルセロナ側に一つミスが発覚したとありました。それは前述の春先に提出した来季の予算と実際の数字に乖離があったということ。どうやら今期の売上見積とコスト算出について提出したクラブ側とそれを受け取ったリーガ側とに認識の違いがあり、金額換算で200億円ほど差異が発生しているようです。クラブは売上で計上しており、この夏に権利売却などによって900億円ほど手にする算段が経っておりますが、税金など差し引くと手元には700億円ほどしか残らず、リーガはこの数字を売上として認識しているとしたようです。

このように売りたくない権利を売却してなんとか売上を確保しつつも、クラブがプランしていたように、選手は出ていかず、もしくは給与削減に応じない状況が続いています。コスト削減を試みようにも半ば強硬手段を取らざるを得ない状況となっているバルセロナ。そもそもの原因を探ると自前で育ててきた選手を放出したところからこのギクシャクが始まっているような気がします。移籍金が発生しない高品質な選手を育成していたクラブが、そこが崩れてしまい、今となっては「育成した選手を売らざるをえず、大金を支払って外部から選手を獲得」している状況です。

いずれにしろこの数日間で多くのことに目処を立てる必要があります。無事にリーガ開幕を迎えることができるのか、そしてファンはついてくるのか、動向に注目です。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」