秋の深まりとともに、冬の訪れを感じる時期になった。「正月の風物詩」全国高校サッカー選手権の予選が佳境を迎えている。

伝統校に新興勢力、時代とともに勢力図は変わりゆく。そんな彩りの変化も楽しみの一つである。そんな中、ことしは東京都Aブロックに「国分寺旋風」が吹いた。

国分寺は1次予選から地道に勝ち上がり、2次予選に進出。1回戦で立川に3-2と競り勝つと、2回戦で実力校の東久留米総合に1-0、さらに準々決勝で伝統校の駒場を2-0と退けた。準優勝した2001年(平13)以来、17年ぶり2度目の準決勝進出。学校創立50周年の節目に、都立有数の進学校が大躍進した。

スタンドにあいさつした後、涙を流す国分寺の選手たち
スタンドにあいさつした後、涙を流す国分寺の選手たち

■国士舘相手に大健闘

11月10日、舞台は憧れの味の素フィールド西が丘。相手は私立の強豪、国士舘だった。両者の力関係を説明しておくと、国分寺は東京都3部リーグの「T3」所属。対する国士舘は同1部リーグの「T1」所属である。だが試合は下馬評に反し、一進一退の好ゲームとなった。

前半5分に国士舘のヘディングシュートはポストに直撃、同10分にはカウンターからシュートを打たれるもゴール右へ外れる。同17分には左クロスから中央に走り込んだ選手のシュートはゴールバーの上へ。立て続けの絶好機、この3本が決まらなかった。裏を返せば、国分寺の選手はどの場面でも粘り強く体を寄せ、相手選手のプレーにわずかな狂いを生じさせていた。

序盤を無失点で乗り切ると、流れは国分寺へ。前半22分、CKからFW小林尚史(2年)のヘディングシュートはGK正面だった。同33分、再びCKを起点に浮いたこぼれ球をMF村木岳琉(2年)が右足シュート。ドライブがかかったボールはわずかにゴールバーを超えた。そして前半ロスタイム、再びMF村木の左足ミドルシュートはゴールバーをたたいた。会場がドッと沸いた。

両チームの選手を比較すれば、個々の技術では明らかに国士舘に分があった。だが国分寺の選手は前線から積極的に走ってプレッシングをかけ、全員がハードワークを繰り返した。ボールを拾えば素早く縦のスペースへ流し、FW小林が体を張ってキープ。そこから粘ってセットプレーを獲得すると、セカンドボールから執拗(しつよう)にゴールを狙った。泥臭くもやり方は一貫していた。

前半途中にはMF栗原龍信郎主将が味方選手と交錯して頭に裂傷を負ったが、頭にバンテージを巻いて出場した。そんな姿もチームを鼓舞する材料となった。後半5分にカウンターからボールをつなぎ、その栗原がGKに迫ったがシュートは打てず。緊迫した展開が続いた。

先取点を挙げ、スタンドのメンバーと一緒に喜ぶ国士舘の選手たち
先取点を挙げ、スタンドのメンバーと一緒に喜ぶ国士舘の選手たち
国士舘に先制点を奪われた直後、ピッチ上で話し合う国分寺の選手たち
国士舘に先制点を奪われた直後、ピッチ上で話し合う国分寺の選手たち

試合が動いたのは後半24分、国士舘はFKからゴール前へ飛び込んだMF長谷川翔(3年)が左足で直接合わせ、ついに均衡を破った。歓喜を爆発させる相手をよそに、国分寺メンバーはすぐにピッチ上で円陣を組み、冷静に話し合う。自分たちのやり方を再確認するとともに、気持ちの立て直しを図った。

後半30分、国士舘はカウンターからスルーパス。鋭く走り込んだMF福田竜之介(3年)に対し、後方からのタックルでPKを献上した。これを福田に決められ、2点のビハインド。終盤も積極的に守備からリズムをつくろうとしたが、決定機をつくれない。3分間のロスタイムを経て、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。

敗れたとはいえ、胸のすく戦いぶりだった。目立つ選手はいないが全員守備・全員攻撃を掲げ、ピッチを全力で駆け抜けた。敗戦に涙を流した選手たちの顔は、どこか晴れやかでもあった。

国分寺MF栗原(左)と国士舘MF長谷川の両主将
国分寺MF栗原(左)と国士舘MF長谷川の両主将

■求める自主自立の姿

サッカーは組織的戦略と工夫のスポーツだと思う。もちろん個々の技術や戦術眼に負うところは大きいのだが。かつて話題になった「もし高校野球の女子マネージャーがドラッガーのマネジメントを読んだら」(ダイヤモンド社、岩崎夏海著)という本がある。経営管理のマネジメント論をもとに組織の目標を設定し、経営資源を効率的に活用したり、リスク管理することで、チームをがらりと変えてしまうという、非常におもしろい内容だった。そんなストーリーが国分寺に重なった。

国分寺はどうチームづくりに着手したのか? どうして勝ち上がれたのか? そんな思いを持って聞いた元木明監督の話は興味深かった。

開口一番、「新チームになって西が丘(4強)まで行こうというのを目標に立てていたので喜びがあります。でも、もう一つ行きたかったし、今日のゲームなら行けてもおかしくなかった。ただ私立に比べて能力があるわけでもないし、環境があるわけでもない。その中で一歩一歩積み重ねてよく来たと思う」

就任8年目という元木監督によると、チームには同監督のほかに実技ができるコーチが2人おり、加えてGK担当、戦術担当、フィジカル担当など7人ものコーチが固めている。

「1年、2年のスパンじゃなくて長い間、コーチによっては十数年やってくれているコーチもいまして。そういう方々が積み重ねてくれたものが一つ開花したのではないのかなと思います。個の力では勝てないので、チームとして連動して、全員で守って全員で攻めるというコンセプトが彼らにうまく合ったかな。個の力があるチームでないので、そこに徹することができたと思います」

国分寺と言えば都立有数の進学校でもあり、勉強とサッカーの両道が求められる。限られた時間の中でどう効率よくサッカーに取り組むかもテーマだ。選手たちの自主自立がおのずと求められる状況である。

「ゲームの中で集まったり、ポジション同士で話し合ったり、試合前には彼らでもミーティングをやったりして、自分たちのやることを一つ一つ物にしていこうというところがあります。我々は教員(の仕事)が主なので、活動に出られない時もありますし、そういう時も彼らは集中して練習をやっている。そういう意味では自主性が活きているチームだなと思います」。

そう言えば、失点を喫した場面で選手全員がピッチで円陣を組み、栗原主将を中心に話し合う姿が印象的だった。国語の教諭であり、スタッフ間、選手とのコミュニケーションを何より大事にする元木監督はこうも付け加えた。

「キャプテンはどちらかというとまとめるというところであり、それぞれの子がリーダー的な意識を持っている。それは彼らが社会に出て行けば、そういう風になっていかなければいけない。リーダーシップをそれぞれが持って、自分で責任感を持ってやっていくというところはあります」

試合後、スタンドに向かってあいさつする国分寺の選手たち
試合後、スタンドに向かってあいさつする国分寺の選手たち

■「サッカーは楽しい」

そんな元木監督の言葉を受けて、栗原主将にも話を聞いた。東京都の高体連加盟校は346もあり、そのうち西が丘で戦えるチームは8校しかない。ブロック4強という結果に満足感を漂わせながら、同様の見解を述べた。

「今大会は1次予選から苦しい試合ばかりでした。去年は飛び抜けた選手がいたんですけど、今年は特にいない。コイツに頼ればみたいなのが。それが良かったというか、そのおかげで全員が一丸となって、全員の力を合わせてやれたと思います」

今年は新人戦、インターハイ予選とも1次リーグで敗れ、都大会には進めていない。そんな中で最後の選手権予選で全国まであと2勝と迫った。どこの都立にも夢を与える大きな快進撃。むやみな上意下達はなくファミリー感にあふれたチームは、対話という手段で課題の改善に努めたのだろう。そこに思い浮かんだのは、ビジネス用語で「PDCA」と表現されるPlan(計画)Do(実行)Check(検証)Action(改善)のサイクル。今回の国分寺旋風は、選手という“経営資源”が最大限に生かされた結果だったに違いない。

栗原主将がチームの思いを代弁するかのように、最後にこう話した。

「自分はサッカーは楽しい、というのを一番大事にしてきました。みんなで壁を乗り越えたり、みんなでふざけ合ったり。つらいことも楽しいこともすべてひっくるめて、本当に楽しい3年間でした」

やらされたサッカーでなく、主体的に打ち込んだゆえのサッカー。その言葉は勝者たるものだった。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)