スポーツ用品の売り上げ規模は、2つのメーカーが大きく抜けている。先頭に立つ米国のナイキ社と、それに続くドイツのアディダス社。ただ、3位以下を見れば毎年順位は激しく入れ替わる。その「第2集団」の猛烈な戦いのさなか、サッカー界にも巨大な“新興勢力”がやってきた。米国のスポーツブランド「ニューバランス」。15年2月から本格参入し、ロシア大会で初めてのワールドカップを迎える。

 スニーカーやランニングシューズで知られる同社は1906年に誕生した。以来、サッカーと無縁の畑を歩いていたかというと、実は違う。82年から90年代前半にかけて1人のレジェンドに商品を提供していた。イングランド代表でも、伝統の7番を背負ったマンチェスターUでも主将を務め、闘将と呼ばれたブライアン・ロブソンに。それが契約金のない無償の“広告塔”だったというから驚く。

 ただ、サッカー界との関わりはそれ以来。同社によると、日本国内サッカーに関する昨年のスポーツ用品市場のブランドシェアは「足数」「金額」とも、アンブロに次ぐ7位。割合は2%ほどという。やはり、新興勢力の感は否めない。

 では、トップ3を目指すとうたう同社のマーケティング戦略はナイキ、アディダスに劣らぬ派手なものになるのかというと、これも違う。Jリーグでは鹿島MF小笠原満男らと契約を結ぶが「両社とは規模が違うので、我々は違った形でいく」。ニューバランス・ジャパンのマーケティング部の山崎祐仁ブランドマーケティングマネジャーが示したのは、意外にも地道な「草の根」活動だった。

 現在U-11~16まで育成年代の大会を主催し、冬の全国高校選手権の開催中には、各地区予選の上位で敗れた計48校を集めて「裏選手権」と呼ばれる大会をサポートする。自社のスパイクを提供し、正しい履き方や選び方も指導する。「有名選手を使って真っ向勝負で宣伝するのではなく、機能性を前面に押し出す形」。広告に使う多額の費用はイベントなどに流用する。

 もちろん「W杯は普段サッカーを見ない人も関心を持つ、大事な機会」と新商品を出し、出場国ではコスタリカとパナマのサプライヤーも担う。ただ、大会中のアプローチの仕方はやはり異彩を放つ。ロシア人のユーチューバーを起用してリバプールなどと絡んだり、動画を用いて「カジュアルな」楽しみ方を宣伝していくという。サッカーに対する敷居を下げる-。“既存勢力”への新ブランドの挑戦も、W杯の見どころの1つになる。【今村健人】