9日、国内スタジアム初となるミネラル湯治施設「Antlers TOJI(アントラーズ・トージ)」がカシマスタジアム内にオープンした。

いわゆる“湯治”を現代化した施設で、イメージとしては岩盤浴に近い。敷き詰められた天然鉱石の上に横になり、ミネラルたっぷりのミストを浴びて汗をかき、同時にミネラル水を飲む。これにより、デトックスと栄養補給を同時に行うことができるという。

記者もさっそく体験してみた。ほんの10分ほど横になるだけで信じられない量の汗が噴き出し、それでいてサウナのような苦しさはない。これを3セット行うのだが、全身で温泉に浸っているような心地よい時間だった。

この施設はアントラーズ運営となるが、17年から同スポンサーを務める株式会社ルフロが技術提供を行っている。東京・西麻布などに「ミネラル浴施設」を展開するルフロ社では、温泉原液を濃縮したバスサプリを販売しており、これまでも選手寮の風呂などでこのサプリを使用していた。

この技術をホームタウンに還元できないか-。そこで誕生したのが、アントラーズ・トージだ。鹿嶋市周辺には温泉施設はないが、ルフロ社の技術を使えば、温泉を掘らずとも温泉成分をミスト化して運ぶことができる。温泉のない地域の人々にも利用してもらおうと、スタジアム内に施設を設けるに至った。

では、なぜスタジアム内にこの施設を建設したのか。

◆地方から100億円規模の経営を目指すクラブとして

アントラーズは、カシマスタジアムの指定管理者の権利を持っている。指定管理者は収支などを受け持つ代わりに、自治体と相談してスタジアム内に施設を造ることができる。とはいえ、1年365日のうち、ホームゲームが開催されるのは多くても30日ほど。残りの335日でいかに「利用してもらうか」が、収入を増やすカギになる。

18年度決算では、クラブ史上最高の営業収入73億円を計上した。将来的には100億円規模の経営を目指しているが、ホームタウン5都市の人口を合わせても30万人に満たないアントラーズでは、他クラブと同じことをしていても成長に限界がある(例えば、浦和レッズのホームタウンであるさいたま市の人口は約130万人である)。

そこで考えたのが、収入の柱を増やすこと。Jクラブの収入は <1>入場料収入 <2>スポンサー収入 <3>グッズ収入 の3本を柱としているが、アントラーズでは <4>スタジアム事業収入 を加えた「4本の柱」で収入を考えている。

カシマスタジアムには、フィットネスジム「カシマウェルネスプラザ」があり、今回、アントラーズ・トージはその施設の一部としてオープンした。他にもスタジアムに隣接して、チームドクターやフィジオセラピストが勤務する「アントラーズスポーツクリニック」があり、地域貢献の一環としての健康事業に力を注いでいる。

地域の人々にプロクラブのノウハウを還元しながら、収入源を増やすことで企業としての成長を図る。アントラーズの取り組みは、さまざまなプロスポーツクラブにとっての新しいロールモデルになるかもしれない。

【杉山理紗】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)