FC町田ゼルビアFW藤尾翔太の「水かけボール」が話題となっている。8月17日の磐田戦(Gスタ)、ボトルの水でボールをぬらしてPKスポットにボールを置くと、主審はボールを交換した。ボールを故意にぬらすことへの規定はなくルール違反ではない。だが「不正」な行為と映ったのだろう。

ボールをぬらすこと自体は、この日で3回目だった。最初は5月19日の東京V戦。水にぬれた低い弾道のボールは右ポストの内側に当たってゴールイン。2回目は6月30日のG大阪戦でも冷静にゴール左へ蹴り込んだ。注目すべきは、3回目になって初めて主審が動いたことだ。23日、黒田剛監督に聞くと「ボールを選択するのは審判に権限がある」と理解した上で、「ルール上は許されているからこれまで審判は止めなかったと思う。しかし今回は分からない。止めたなら、何かしらの見解を示してほしい」と要望した。

この「水かけボール」には伏線がある。藤尾は3月30日の鳥栖戦でPKキッカーを務めたが、乾いた芝で蹴り損ねゴール枠を外した。プロにとって1点は自分のキャリア形成にとって大きなものだ。そこへ巡ってきた東京V戦のPK。くしくも同じGスタ、同じホームサポーター側ゴール、同じ晴れたデーゲームだった。勝負勘が働いた。その1つの成功体験から続く「彼なりのルーティン。損得がないのは(本人も)知っている」(同監督)。もちろんチームの指示ではない。

ネット上には賛否の声が広がる。「やるべきではない」という見解が多い。また「飲み水をかけるのはよくない」との声もある。一つ説明すると「水」とは糖分のあるスポーツドリンクなどではなく、芝生の成育に問題のない正真正銘の水で、頭や手足を冷やすなど「さまざまな用途」に使われている。ボールにかけること自体、決して反紳士的行為には当たらない。見慣れない行為への違和感が強いように思う。例えば、PKでキーパーが自身のグローブに大量の唾液を吐きかけ滑らないようにしたところで、誰も批判はしない。

黒田監督は「みんなでつかみ取った勝利でも、そこばっかり注目されるのは選手がかわいそう。試合内容を見てもらいたい」。それでも町田がPKを取れば、引き続き“そこ”が注目されることは変わらない。

「水かけボール」は不正行為か? 社会規範、多様な価値観が絡み合うだけに明確な回答はない。この「水かけ論」を収束させるには、審判委員側が見解を示すことが1つの策だろう。

そしてもう1つ。100年以上の歴史ある欧州のようなサッカー文化が日本に根付いていく上で、こういう議論も大切な過程なのだと思う。【佐藤隆志】

2024年8月17日、磐田戦の後半、PKを蹴る前にボールに水をかけた町田藤尾(左)だったが、高崎主審に交換されてしまう
2024年8月17日、磐田戦の後半、PKを蹴る前にボールに水をかけた町田藤尾(左)だったが、高崎主審に交換されてしまう
2024年8月17日、磐田戦の後半、PKを決める町田藤尾
2024年8月17日、磐田戦の後半、PKを決める町田藤尾