日本女子代表なでしこジャパンの東京合宿4日目となる23日、北京五輪男子400メートルリレー銅メダリストの朝原宣治氏(44)を講師に招いた特別授業が、都内体育館で行われた。日本陸上短距離界の第一人者から約2時間、固めた体幹を軸に体を動かす基本動作、効率良くスピードを上げる走り方などの指導を受けた。

 背骨を真っすぐにして体を動かす初歩の部分から、踏み台を使った膝の上げ下げ、ハードルを用いた股関節の動かし方、スキップ、等間隔の棒をまたぐスプリントと徐々にメニューは移行。ピッチを速くする過程を丁寧に教えた朝原氏は「今日は基礎的な部分だけ。体幹や股関節など、中心から体を動かせるようになるにはどうしたらいいか、どういう体の使い方をしたら効率がいいか。そこを説明したら意識して反映してくれました。やるたびに良くなっていった」と、課題のスピードアップに一役買った。

 普段、直線の走り方まで突き詰めて練習する機会が少ないという選手からは新鮮な反応が。エース候補のFW横山が「普段やらないことばかりでした。新たな発見」と言えば、15年W杯カナダ大会でブレークしたDF有吉は「難しかったけど、しっくりきた部分もあったので今後、意識しながらやっていければ。(力が後ろに流れないよう)足を前に出しながら走る動き、4足歩行のメニューがきつかった(笑い)。前後左右に動くサッカーの動きに落とし込んでいければ」。理解力の高かったGK池田や猶本、中里の両MFが全員の前で手本を見せるよう促されるなど、朝原氏から褒められる選手も出てきた。

 今回の特別授業は、朝原氏と親交のある高倉監督が昨秋、メールで「なでしこの足、速くしてよ」と打診し、朝原氏から「ええで」と快諾されたことから始まった。同氏は昨年11月、20年東京五輪に向けて若手選手を育成する陸上の「ダイヤモンドアスリート」のプログラムマネジャーに就任するなど多忙を極めたが、今回のフィジカル合宿に合わせて上京。「女性に囲まれて楽しかった」と冗談を飛ばしながら「サッカー選手を教えるのは初めて。体を使い切れている選手もいたし、種目によって、できるできないはあったけど、ポテンシャルを感じました」。走りの専門技術を注入し「今日は、ただのダッシュ。あとはボールを持った時とかサッカーの動きにつなげてほしい」と話した。

 女子サッカー界では今年1年、大きな大会は開催されないが、18年アジア杯ヨルダン大会、19年W杯フランス大会、20年東京五輪を見据え、高倉監督は底上げを進めている。栄養の摂取方法を見直せるよう、都内のスポーツ科学の最先端施設で合宿を張り、21日にはソウル五輪シンクロナイズドスイミング銅メダリストで、メンタルトレーナーの田中ウルヴェ京氏(49)を特別講師に招き、精神面を強める講義を受けさせた。

 今回は走力アップに特化して、朝原氏を招請。自らも選手と一緒にメニューを体験してみた高倉監督は「朝原君のような一流選手から言葉をかけてもらうと、私やトレーナーの普段の話とは納得度が違う。今回のフィジカル合宿では、今まで手をつけてなかった、ボールを蹴る以外の部分で変化を求めたかった。もう『日本はフィジカルが弱い』とも言われたくなくて、お願いした」と招いた理由を説明。「私も現役の時に教えてもらいたかった~」と笑いながら「今日の経験をチームに持ち帰ってトレーニングしてほしい。これを続けて、米国に(体格差、スピード差で)ぶっちぎられないようにしないと」と長期的な目標を口にした。

 昨年はアジア最終予選で敗退し、リオデジャネイロ五輪出場権を逃した。どん底から再び世界の頂点に返り咲くため、新たな取り組みを重ねる高倉ジャパン。初招集4人を含む選手たちが、走り勝つための第1歩を踏みしめた。【木下淳】