W杯ロシア大会まで残り9カ月を切り、どう日本は進んでいくべきか。元日本代表監督の岡田武史氏(61=日本協会副会長)は、10年南アフリカ大会の約2年前から強化を継続していた。ピッチでの上下動が激しいハリルジャパンにも参考になりそうだ。【取材・構成=木下淳】

 岡田ジャパンは08年8月のキリンチャレンジ杯で強豪ウルグアイに屈し、世界の厳しさを改めて知った。「1-3で敗れた後、A4用紙を配って一番上に『W杯ベスト4』と書かせた。その下に、達成するためには今日、1週間後、1カ月後、1年後、何が必要か書かせて明確に意識づけした。98年フランス大会は、初出場でアルゼンチンのバティストゥータやベロンにサインをもらいに行きそうな雰囲気だったが、12年後の南アフリカ大会は出るだけじゃ話にならないと」。

 並行して3つの具体的メニューも取り入れた。(1)体幹トレーニング(2)走行距離向上(3)中距離パスの精度。

 (1)は球際で勝つためだ。先日、日本人初の100メートル9秒台をマークした桐生祥秀(東洋大)も意識して改善した、日本人の身体的特徴「骨盤の後傾」。岡田氏は約10年前から着目していた。反対に骨盤が前傾している外国人は速く、強い。骨盤を引き締めて姿勢を正すべく、深層筋肉を鍛える体幹メニューを導入した。

 「米アリゾナ州に研究施設があって。すぐコーチを派遣した」。予選突破したW杯1年前に上々の数字が出始め、開幕2カ月前にCSKAモスクワ本田を視察して感心した。体幹が格段に強くなり、当たられてボールを失う回数が減少。与えたメニュー以上の個人努力で進化した姿に、代表の柱に据える確信を得たという。「体幹がしっかりすればボール際の攻防が五分に近づく。ハリルホジッチ監督の『デュエル(決闘)』の前からボール際が大事なのは明らかだったから」。

 (2)は「ローパワー・トレーニング」を採用。時速8・3キロ以下の緩走行時の体内消費を抑え、持久力を高める練習で「1人1キロ多く走ればフィールドプレーヤーで計10キロ。“12”対11で勝とうと。みんな、すごく意識してくれて。ヤット(遠藤保仁)なんて、試合後すぐデータ班のところに行き『何キロだった?』と確認していたよ」と懐かしむ。

 (3)はミドルパスの内容を整理し「精度が高まれば、自分たちがボールを持つ時間が長くなる」と訴えた。「パスの成功率だけは上がらなかった」と岡田氏は反省するが(1)(2)に関しては、16強入りした南アフリカ大会で一定のデータが出た。

 「日本人は個で勝てないと決めつけられたくなかった」。まだ2年前。W杯メンバーに選ばれるか分からない状態で「みんな自チームの練習もあるのに追加で取り組んでくれた。だから自分も生半可なことは言えない。『本気でベスト4を目指す選手と俺はW杯に行く』と断言した。『ベスト4に行きたい』ではなく『行く』と退路を断った」。

 現代表にも信じた道を突き進んでほしい。「ハリルホジッチ監督のサッカーは非常にアップダウンが求められる。さらに走行距離を延ばすような努力は必要だし、体幹だけでなく1対1や2対1の対人練習もしていかないと。そこをベースに、どう日本人が勝つか追求してほしい」。過去最高8強を狙うハリルジャパンに期待を寄せた。(つづく)