W杯(ワールドカップ)ロシア大会開幕まで今日6日で100日。日本代表歴代3位の50得点を挙げるレスターFW岡崎慎司(31)は、昨年9月を最後に代表から外れている。ハリルジャパンの戦術に合う1トップ像と自分が異なる現実に悩み、もがき、受け入れ、ある答えにたどり着いた。このほどインタビューに応じ、2度のW杯を経験したストライカーの現在地、思い描くロシアへの道のりを明らかにした。【取材・構成=岡崎悠利】
岡崎は車を走らせ、待ち合わせた英レスター市内のホテルに1人で現れた。年末年始も中断のないプレミアリーグで走り続けるFWは、10月からの代表落選を冷静に受け止めていた。「正直外れるなと思っていた。自分でも代表では納得できないプレーが多かった。監督も自分に満足していないように見えていた。(W杯予選の)終盤はほとんど試合にも出ていなかったので。予選は経験ある選手を外せないという思いが(監督に)あると思っていたし、外れるならここかなと」。W杯出場決定後、チャンスを得たサウジアラビア戦は敗戦。結果を出せなかった自分を戒めるように語った。
W杯出場が決まっても、心に引っかかるものがあった。「UAE戦に負けたのも自分だし、イラク戦で劇的に勝った時は自分は出ていなかった。アウェーのタイ戦も自分は出ずに勝って。チームにフィットしきれていなかったこともあって、代表にいる時に不安もあった」。ハリルジャパンの1トップに求められるキープ力や起点になるプレーを得意とするFW大迫が出場時間を延ばすのを見て、「これだと、なかなか出るのが難しいなと思う自分もいた」。ライバルを見て理解を深めるほど、持ち味が異なるとはいえ対応できない自身に腹が立った。
レスターで求められるセカンドストライカーのような役目はハリルジャパンにはない。自分を貫くかチームに合わせるか、揺れながらここまできた。「レスターでやってることを無理やり代表で、と考えた時期もあったし、代表とレスターは違うから、と分けていた時もあった。それを繰り返して、(14年大会後から)3年間うまくいかなかった」。
試行錯誤のさなかでも、W杯出場は至上命令。日本がアジアで負けてはいけない。その責任感が岡崎を縛った。「W杯予選は魔物がいるというか。勝たなきゃいけない相手というのがすごくやりづらかった。とにかく突破しなきゃ、と守りに入っている自分もいた。だから、踏ん切りがつかなかったところもあった」。
そうして17年3月の国際Aマッチ通算50ゴールを最後に得点がなく、10、11月と代表に呼ばれなかった。青いユニホームをテレビ越しに見る。この時間で、岡崎の中で1つの気持ちが固まった。「日本代表に入るために海外に来ているわけじゃない。世界と勝負しに来ている。その延長上に代表がある。ということは、合わせるよりも自分の形で代表にフィットできることを見せるしかない」。
昨年11月の欧州遠征のブラジル戦はテレビで見た。日本代表は圧倒されていた。「もっと日本代表には強くあってほしい。このままではいけない」。岡崎自身、10、14年と2度W杯で世界の強国に打ちのめされた。その経験が“代表に選ばれるため”のプレーを岡崎の頭から捨てさせた。「(W杯に)出るだけじゃ意味がない。結果を出せる状態で選ばれなければ。W杯に出て、そこで活躍できる選手が必要なわけだから」。その考えに至った時、進むべき道は明白になった。
「監督が決めることに対して合ってない自分の力のなさも感じる。でも、誰も文句が出ないくらいのプレーで(マイナス要素を)一蹴したい」
目標はW杯で勝つこと。求められるプレースタイルが違っても、結果で示せるくらいの武器を持たなければ世界では戦えない。自分のやり方を突き詰めると決めた。「今季は自分が信じた形で戦うと決めた。これで今後代表に招集されてもそうでなくても、悔いはない。(W杯に)出られればありのままで勝負するだけだし、選ばれなかったら自分のせい。そう考えてからはクラブでのプレーだけに集中している」。
勝つことを見据えるからこそ、思うことがある。「個人的に」と前置きして続けた。「W杯前だから試合に出ないと、というのはもちろんだけど、レベルを下げてでも試合に出られるチームでやっている(選手の)集まりが、W杯で勝てるかといったら…。自分としてはその時期は過ぎたと思っている。いろんな選手が厳しいところでチャレンジして、その中でより活躍している選手が呼ばれる時代になっていかなければいけない」。海外で試合に出られるか否かという段階から次のステージへ進まなければ、世界で勝てるようにはならない。その思いが、代表落ちのリスクを負ってでも自分を磨くという覚悟ににじむ。
今はレスターでゴールを決めることだけに集中している。「たとえば『10分出場して得点なし』という結果でも、その10分でちょっとの手応えをつかめていると自分は感じている。まだまだ自分は伸びていると思う。たとえ3月(の代表活動)で選ばれても選ばれなくても、最後まで自分のやるべきことをやるだけ」。心に決めた道はロシアへつながっていると信じ、突き進む。