誰も攻撃のスイッチを入れなかった。仕掛けも少なかった。DFとMFの2ラインのブロックを作り、守りに徹した相手の壁は難攻不落に思えた。一定の距離を保ち、リスクを冒さず、果敢にチャレンジせずに、あの壁を崩すのは難しい。

本来日本は、それを崩せる能力を持っている。しかし「きれいにつないで崩そう」との意識が強すぎた。中盤で相手1人を外してパスを出すとか、思いっきりドリブルを仕掛けるとか、ボールを取られるリスクはあるが、そのミスを恐れずに攻める必要があった。1本のダイレクトパスが攻撃のスイッチを入れることがあるが、ワンタッチパスも少なかった。

8年前に日本がW杯で優勝した時は、ボランチの澤さんと阪口のダイレクトパスからスイッチが入った。前線にパスが入った瞬間、全員が「スイッチが入ったな」と同時に思って一気に選手間の距離を縮めたり、2手3手先を考えてそれぞれがオートマチックに動いた。しかしアルゼンチン戦は誰もスイッチを入れないし、入れたらどう連動すればいいのかなど、意思統一もないような気がした。

選手交代も苦しかった。阪口らベテランを投入し、流れを変えるタイミングで高倉監督は経験の浅い若手を入れた。負傷で体調が戻らない選手が多く、指揮官も苦しんだに違いない。だが、なでしこには修正力がある。過去のW杯でも大会期間中に話し合いを重ねて改善策を見いだしてきた。練習中、食事中、散歩中、休憩中も、必要と思う選手間で自然とグループ討論会が開かれる。選手間の壁がないから、井戸端会議のような会話の中で解決策が見つかることもある。だから、私は中3日のスコットランド戦は、初戦とは違うなでしこが見られると確信している。

◆安藤梢(あんどう・こずえ)1982年(昭57)7月9日、栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮女子高-筑波大を経て、02年さいたまレイナス入りして新人王。05年から浦和所属。04、09年にいずれも最優秀選手と得点王を獲得してリーグ優勝に輝いた。09年からデュイスブルク、13年からはフランクフルト、15年からエッセンと、ドイツの3クラブに在籍。2度のリーグ優勝と、15年欧州CL優勝を経験した。17年からは古巣浦和に復帰。日本代表では11年W杯優勝し、チームで国民栄誉賞を受賞。翌年のロンドン五輪では銀メダルを獲得した。18年に筑波大学大学院、人間総合科学研究科博士(体育科学)取得。164センチ。