名場面に名言あり。サッカー界で語り継がれる記憶に残る言葉の数々。「あの監督の、あの選手の、あの場面」をセレクトし、振り返ります。

 

「サッカーにマジックはない。あるのはロジック(論理)だけだ」。

元日本代表ハンス・オフト監督の口癖であり、メディアやファンに対する反発の言葉でもあった。

初の外国人監督として日本代表を率い、92年のアジア杯で初優勝。その手腕は「オフト・マジック」と呼ばれた。だが本人は「代表の力は、その国のサッカーの力。マジックはない。あるのはロジックだけだ」と言った。

オフト監督の練習、戦術、選手起用には必ず明確な理由、狙いがあった。オランダ人監督は選手に規律を守らせ、役割分担を与えた。ピッチ上では「アイコンタクト」「トライアングル」「3ライン」「コーチング」など今では当たり前のことを徹底。サッカー不毛の地に持ち込まれた目新しい理論を、選手だけでなく、記者もファンも学んだ。

代表チームが初めてアジアを制したこともあって、その指導はまるでマジックのように思えたが、オフト監督にとってはタネも仕掛けもない、代表を強くするための基本にすぎなかった。

カズ(三浦知良)、ラモス瑠偉らを擁した日本は着実に実力を高め、93年のJリーグ開幕とともに躍進した。94年ワールドカップ(W杯)米国大会のアジア1次予選を7勝1分けの負けなしで突破し、最終予選の第4戦では宿敵韓国も下した。

だが、勝てば初のW杯出場が決まる最終イラク戦、いわゆる「ドーハの悲劇」で、その夢は散った。それでも、ここでまかれた種は4年後に結実。夢は現実となった。