元サッカー日本代表監督のフィリップ・トルシエ氏(67)が5日、横浜市神奈川区民文化センターで行われた「ヨコハマフットボール映画祭2022」のトークショーに登壇し、自身が率いていた02年ワールドカップ(W杯)日韓大会時の思い出などを語った。

当時の大会アンセムが鳴り響く中で登場し「この音楽は僕の頭の中でずっと流れています。私はこのアンセムは一生忘れません。音楽を聴くと涙が出てきちゃうんですよ。今日は招待してくれてありがとうございます」とあいさつした。

日本代表は横浜国際総合競技場(日産スタジアム)で行われたロシアとの1次リーグ第2戦でW杯初勝利を挙げた。スクリーンには勝利を報じる当時の日刊スポーツ紙面も表示され、トルシエ氏も「この(新聞の)写真のように、横浜という場所は20年前に我々がW杯で初めて3ポイントを獲得した地です。この勝利は日本サッカーにとって一生忘れられないもの。当時の小泉純一郎首相も日本のドレッシングルームに来てくれました」と振り返った。

この日のトルシエ氏はご機嫌な様子で、観客へ向けても「何でも質問してください。今日は何でも答えます」と笑顔。日本の監督となった経緯については、多くの偶然が重なり合っての実現だったと語った。監督の人選について日本サッカー協会がフランスサッカー協会に相談していたことなどを挙げ「もし98年のW杯でフランスが優勝していなかったら(フランス人の)私は監督になっていなかったかもしれません。スペインが勝っていたらスペイン人になっていたと思います」。

質問では、アーセナルやJリーグの名古屋グランパスなども指揮したベンゲル監督からも本当に勧められたのかと問われた。「彼とは同じ監督研修も受けていて、昔から知っている仲です。日本サッカー協会がベンゲルに私のことを聞いて(ベンゲルが)『間違いない』と答えたと。それも彼が名古屋に来ていなければ私が監督になることもなかったでしょう」と笑った。その上で「人生は本当に何が起こるか分からない。私が若い人たちに言いたいことは、事前準備も大事ですが、人生それで全てうまくいくわけないですから。いろんな出会いがあるでしょうから、それは積極的につかんでください」と話した。

今年もW杯イヤーで、11月にカタールで本大会が行われる。日本は1次リーグで優勝経験のあるドイツ、スペインらと同組となった。トルシエ氏は「死のグループと言っていいでしょう。おそらく80%ぐらいの方は論理的に考えてノーチャンスだと思っていると思います。でもそれはあくまでもデータです」と語り、突破の可能性についても言及した。

日本が1次リーグ初戦でドイツ、3戦目でスペインと対戦することに着目し、「1戦目と3戦目では全然状況が違う。第1戦はどちらも初戦で、心理的な状況はそれほど大きな差はないです。日本は何人かの代表選手がドイツでプレーしています。そういう意味ではコンプレックスはないです。そして日本には失うものもない。もしドイツは負けたら、全部を失ってしまうくらいです」と熱弁。続けて「なので、確信しているのは第1戦で日本が驚きのサプライズを演出してくれると。引き分けもあるかもしれません。それで第2戦、まだ相手が決まっていませんが、コスタリカかニュージーランドに勝って、勝ち点4でスペイン戦に臨みたいですね。W杯では何が起きるかわかりませんから」と力を込めた。

最後は来場した観客全員と丁寧に握手。「みなさんで映りましょう」と呼びかけて写真撮影も観客をバックに行い「今日は呼んでいただいてありがとうございました」と笑顔で会場をあとにした。トークショーにはタレントの笹木かおり、ノンフィクションライターの宇都宮徹壱氏も登壇した。