ジーコ氏(70=鹿島クラブアドバイザー)が監督として率いた日本代表は、06年FIFAワールドカップ(W杯)ドイツ大会で1次リーグ敗退した。1分け2敗。大会後、同氏は「日本人のフィジカルの弱さが敗因」と分析した、と日本国内では伝えられてきた。身体的な差を敗因にするのであれば「誰が監督をしたって世界に勝てない」と当時から批判も多かった。17年が経過した今、本人に「真相」を迫った。【取材・構成=盧載鎭、岩田千代巳】
-W杯ドイツ大会まで4年間、日本の指揮を執った。大会後、あなたが残した言葉は「日本は、まだ世界と比べてフィジカルが弱い。そこを改善していく必要がある」だった
ジーコ氏 「フィジカル」と言った記憶はない。私は「情緒の面で良くなる必要がある」という話をしたはずだ。なぜかと言うと、(1-3の初戦)オーストラリア戦で(終盤の)8分間で3失点した。あれが敗退を決めつけたと思う。なので、情緒というか感情というか「エモーショナルな部分で日本はもっと強くならないといけない」というお話をしたつもりだ。
-えっ…本当に?
ジーコ氏 フィジカルに関して私が話したことは「フィジカルの強さ」ではなく「体形、骨格、骨の強さ」だ。私の中で「あのシーンで骨折するの?」という場面が幾度もあった。日本人の骨格というか、骨の強さ。なぜ骨折になるのかと思う場面があったんだ。私が4年間、指揮して、選手が骨折した場面が7回もあった。小野(伸二)に限っては2回だ。バーレーンでの試合。とても大事な一戦で、勝てばW杯が決まるという試合だった。私がグラウンドを歩いていて、小野選手も、ちょうど横を歩いていた。その時に「ザザッ」という音が聞こえた。何の音だろう? と思った。そうしたら彼が病院に行くと。エックス線検査を受けたら骨折していた。柳沢(敦)選手に関して言えば、W杯の3カ月くらい前だったか、ちょっと所属クラブで骨折してしまったケースがあった。稲本(潤一)選手は、代表でイングランド遠征に行った時、アイスランドとの試合でジャンプして着地した際、骨折してしまったことがあった。そういった経験があったので「なぜ骨折が多いのか」ということで、その意味でのフィジカルの話をした。
-我々が「フィジカル」を誤解していた
ジーコ氏 骨折してしまうと、選手は2カ月、3カ月と離脱してしまうので、その中で理想の選手を集めてプレーできるかとなると難しくなってしまう。実際に、W杯には連れて行けなかった選手もいる。それは久保(竜彦)だ。当時、腰をやってしまって。
-04年のアジア杯中国大会で優勝し、W杯も期待された。ブラジルに1-4で負けて敗退した時、期待が大きかった分、日本のショックも大きかったが、本人はどうだったのか?
ジーコ氏 あの大会は、最初のオーストラリア戦が全てを物語っている。オーストラリアは、日本に勝って次のステージ(決勝トーナメント)に進んだ。そのオーストラリア戦に勝っていれば、おそらく日本は1次リーグを突破していただろう。クロアチア戦は(0-0で)引き分けてしまったが、内容からして勝てる試合ではなかった。ブラジルに負けたことは1次リーグ突破には、特に影響はしていなかったと思う。それほど、第1戦のオーストラリア戦は私の中で大事だった。第3戦のブラジル戦を迎えた時、我々は2点差で勝つことが必要だった。そして、裏の試合でクロアチアがオーストラリアに勝つことが突破の条件だったと記憶している。(玉田圭司が前半34分に決め)1-0で勝っていて、行くのかなと思ったら、前半の最後(ロスタイム1分)に1点を(ロナウドに)入れられて1-1となって、少し計算が狂ったのかなと。複雑になってしまった。
-オーストラリア戦はメンタルの影響か
ジーコ氏 メンタルというより、本当にいろいろな出来事があった。オーストラリア戦は2つの問題があった。1つは坪井(慶介)選手が負傷してしまった(後半開始早々に両足4カ所がつった)こと。最終ラインは3バックで戦っていたが、本来は左の中沢(佑二)選手を3バックの右に配置することが必要になってしまった。それで左に茂庭(照幸)選手を置いた。もう1つは、駒野(友一)選手が右サイドでプレーしていて、ケーヒルからペナルティーエリア内でファウルを受けた。それに対して審判はPKを与えなかった。その場面で日本にPKを与え、ケーヒルにイエローカードを出していれば、2回目の警告で彼は退場になっていた。しかし、その後に起きたことはケーヒルに2点目が生まれたということだった。
-不運だった
ジーコ氏 W杯に入る直前、親善試合でドイツに2-2で引き分けたことがあったが、実はその時も日本に不運が訪れていた。日本はとてもいい試合をして2-0で勝っていたが、ドイツの中盤の選手がイライラしていたのか、我々の選手をけがさせたんだ。シュバインシュタイガーが、ボールがないところでファウルして高原(直泰)選手が負傷した。オーストラリア戦を迎えるに当たり、最後の調整をベストの布陣で戦えていたのに、そのようなことが起きてしまった。ベスト布陣をなかなか組むことができなかった理由がいくつもあった。
-要するに、日本に足りなかったのはフィジカルよりメンタルであり、想定外のアクシデントも重なっていたということか
ジーコ氏 メンタル面では、やはり8分間で3失点の場面。(18年W杯ロシア大会の決勝トーナメント1回戦)ベルギー戦に関しても、中盤までの2-0から失点して、流れ的にもだんだん崩れて、最終的には負けてしまった。私の言うメンタルで、日本人の傾向としてあるのかな? と思うことは、点を取られたことに対して、少し集中を切らしてしまうところがある。次のプレーに、なかなか切り替えることができない。次につなげて、またパフォーマンスを上げていくことが難しいと言えるのかな。
-つまり、我々が思っていた「フィジカルの問題」ではない
ジーコ氏 本来であればセンターバックは田中誠選手だった。W杯の前にけがをしてしまった。本当は坪井、宮本(恒靖)に中沢、田中の4人を考えていたんだけどね。それで茂庭と入れ替えたんだ。私が言いたいのは、フィジカルとは、けがに対するフィジカルのこと。コンディション的なフィジカルではない。そこを取り違えられてしまったのかなと。まあ、そんなことを言うと、フィジカルコーチだった里内(猛)さんが悪者になってしまうけれど。君たちは里内さんを陥れたいのかな(笑い)。ダメです、かわいそうです。

