ビジネス界出身ながら世界水準のリーグを目指して3期6年目の村井満チェアマン(59)が、日刊スポーツで執筆中のコラム「無手勝流(むてかつりゅう)」。2日に60歳の誕生日を迎えたチェアマンが今回のテーマにしたのは「人命」。チェアマンは今年から「AED」をリュックに忍ばせて通勤しています。心肺停止で死去した元日本代表DF松田直樹さん(享年34)の命日でもある8月4日を前に、Jリーグをはじめ、みんなでつなぎとめられる「命」の尊さを考えます。

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16年にわたって横浜F・マリノスに所属し、日本代表としても活躍した松田直樹選手は、11年8月2日、所属していた松本山雅FCでの練習中に心肺停止で突然倒れました。その後救命センターに運ばれましたが、2日後の4日に34歳という若さで帰らぬ人となってしまいました。

松田さんが亡くなってから、日本ではAEDの普及が大きく進みました。AEDとは心臓がけいれんによってポンプの役割を果たせなくなった際に電気ショックを与えることで、元の収縮機能を取り戻させる機器です。

縁あって昨年より私は「日本AED財団」の顧問を務めさせていただいています。「私の周囲で人が突然倒れたら、瞬時に適切な行動がとれるだろうか」。AEDの講習に参加したり、体験談をお聞きしたりするうちに、そんなことを考え始めたのがきっかけでした。心停止の際の応急処置は、1分1秒を争います。AEDによる電気ショックが1分遅れると救命率は10%下がるそうです。私は自宅周辺や行きつけの居酒屋、公園、海外出張先など、生活空間でのAEDの設置場所がとても気になり始めました。結局、5分以内に手元に届くのは難易度が高いと知りました。

単純な私は通販でAEDを購入し、今年からリュックサックにAEDを入れて通勤しています。毎朝電車で通勤するのですが、1時間ほどの道のりに1・5キロの重量は少しだけ重く感じます。倒れた人がいたら、大きな声で本人に呼び掛けて様子を確認し、通常の呼吸と違うと判断したら心臓マッサージを開始するとともに、119番通報やAEDを探してもらうよう周囲の人に呼び掛けなければなりません。「車両の隣人が突然倒れたら大きな声が出せるだろうか」「AEDパットを装着するために服を脱がしてもいいだろうか」などと考え始めると、電車の中で緊張して気が引き締まったりします。少し慣れてきましたが、自分が猫背になってきていると言われているので、AEDは背筋を鍛えるウエートトレーニング機材だと思うようにしています

松田選手が亡くなってから8年、横浜は初めてこの時期に日産スタジアムでの試合の機会を得ました。8月3日の清水エスパルス戦の試合前に、ファン、サポーターとともにCPR(心肺蘇生)ペットボトルトレーニングの体験会を行います。。胸骨を圧迫する際に必要な力と空のペットボトルを押す力は近いのだそうです。横浜はスポーツ現場における突然死ゼロを願い、数万名のお客様に「命をつなぐアクション」を呼びかけると聞いています。今回はAEDとともに必要な心肺蘇生法を広く伝えていくイベントです。現在も日本では年間に6万人もの方々が心臓突然死で亡くなっています。医師でなくても救える命があることを、今回のようなイベントを機に、少しでも知っていただければと願っています。