日本(FIFAランキング24位)が、ドイツ(同11位)から大金星を手にした。押し込まれた前半は勝機を見いだすのも難しかったが、後半で鮮やかな逆転。森保一監督(54)が下したシステム変更と選手交代の、采配の妙があった。指揮官と選手たちの言葉とともに、歴史的勝利をつかむまでの90分間を振り返る。

ドイツに勝利し声援に応える日本代表イレブン(2022年11月23日)
ドイツに勝利し声援に応える日本代表イレブン(2022年11月23日)
ドイツの布陣
ドイツの布陣

サイド狙われ支配率18% 鎌田「このままなら一生後悔」

試合開始時の布陣
試合開始時の布陣

◆前半

9月のドイツ遠征で好感触を得た4-2-3-1でスタート。ハイプレスからの高速カウンターを狙った。FW前田がオフサイドながらネットを揺らした場面も。ただ、大半の時間は押し込まれた。名手GKノイアーまでもがパス回しに加わる相手にプレスがハマらず、中盤のスペースを使われて、前進を許した。

パスと身のこなしでプレスをいなすドイツの力は予想以上。またトップ下のFWミュラーが動き回り、左サイドバック(SB)のDFラウムが大きく上がったポジションをとってきたのも予想外。両サイドの伊東、久保が守備の駒として機能しづらい状態を作られた。SBの酒井、長友らが複数選手をカバーする数的不利の状況に。ゴールこそPK1本でしのいだものの、シュートは日本の1本に対して13本を浴び、支配率は18%。MF鎌田は「前半のまま終わっていれば、過去最悪、一生後悔する内容だった」と振り返っている。

マンツーマンの3バックに変更 プレスかける相手が明確に

後半開始時の布陣
後半開始時の布陣

◆ハーフタイムから後半へ

圧倒された前半。ただチームに動揺はなかった。森保監督は、思い切ったシステム変更を告げる。「ボールを握られて、かなり横幅を揺さぶられていたのでケアをしようと」。MF久保のパフォーマンスは悪くなかったが、前半で下げる決断。DF冨安を投入。0-1だが、まずセンターバックを2人から3人に増やした。SBの長友、酒井がよりサイドをカバーできる布陣で、守備を安定させた。

後半は3-4-2-1でスタート。前半で右サイドにいた伊東、トップ下だった鎌田が1トップ前田に続くシャドーに。立ち位置を修正したことで各選手がプレスをかけるべき相手が明確になった。最終ラインはスペースを消す守備から、マンツーマンに。守る相手ははっきりするが、常にドイツの猛者たちとの1対1になる。1人がやられれば途端にピンチになる。選手はやってくれるという指揮官の信頼がここにあった。

互角にやれると守備信頼 攻撃陣同時投入スイッチON

◆攻撃への号砲

後半12分からの布陣
後半12分からの布陣

「まず大事なのは局面での個の力」。就任当初から、指揮官は言い続けてきた。1対1で負けていては勝負にならない。リスクは覚悟した。DF冨安は「たくさんの練習をしているわけではなかった」と3バックへの陣形変更について語る。これまでの強化試合でも3バックは終盤に使う程度だった。それでも選手は応えて、ピンチはありながらも耐えた。迎えた後半12分、指揮官からピッチに合図が送られた。

DF長友に代えて、MF三笘を投入。サイドを守備的な選手から攻撃の選手に代えた。さらに最前線も前田からFW浅野に変更。防戦が続く中でも、攻撃陣を同時に2人入れて点を取りにいく姿勢を明確にした。後半の早い時間帯で、守備陣は1対1で十分に渡り合えると踏んだ。「前半は相手をリスペクトしすぎていた」(鎌田)という選手を奮い立たせる起用だった。

立ち位置変わっても迷いなく意図理解 ドイツは混乱

後半26分からの布陣
後半26分からの布陣

◆堂安投入

2人同時交代から14分後の後半26分、MF堂安を送り出した。シャドーに配置し、鎌田がボランチ、MF田中がベンチに下がった。鎌田は「3バックは常にクラブでやっている」と違和感なし。大会直前の17日カナダ戦でも、鎌田のボランチは試している。これで浅野、堂安、伊東、三笘、ボランチに下がった鎌田と攻撃の選手が5人。矢継ぎ早に立ち位置が変わっても、選手に迷いはなかった。対応が追いつかないドイツとは対照的だった。

その後もドイツの個人技でゴール前に迫られるシーンはあったが、GK権田の好セーブもあってしのぐ。一方で前線へのパスが増え、相手DFの裏のスペースをつく攻撃が増えた。指揮官は「(守備で)5バックになるところ(前線で)圧力をかける部分をうまく使い分けてくれた」と、選手が交代の意図を理解してプレーしたことに感謝を述べている。

ラスト5人目も攻撃増やし攻勢 同点弾!勝ち越し弾!!

後半30分からの布陣
後半30分からの布陣

◆同点、逆転

後半30分、ラスト5人目の交代カードも攻撃の枚数を増やした。DF酒井を下げMF南野を投入。これで攻撃の選手が6人。酒井の位置には伊東が入り、南野と堂安のシャドーとした。サイドに三笘、伊東と個で仕掛けられる駒を残してさらに攻勢を強めた瞬間、同点ゴール。攻め上がった三笘からパスを受けた南野が狙い、GKノイアーにはじかれたこぼれ球の堂安がつめた。そして最後は森保監督と広島時代から師弟関係にある浅野の個人技でノイアーを破った。

三笘は所属のブライトンでもウイングバックを経験。守備時は戻り、攻撃になれば一気に前線へと多くの運動量も求められる。体調不良で合流が遅れて心配されたが、後半途中からの起用で生きた。システム、選手交代、すべてがはまった。吉田主将は「あまりにもプラン通りでびっくり」。鎌田も「森保さんの采配がすべて」。勝負師の手腕が選手を金星へと導いた。

パス成功率66%→88%

日本-ドイツ戦の前後半別スタッツ
日本-ドイツ戦の前後半別スタッツ

◆ドイツ戦の前後半別スタッツ 前半のシュート数は前田の枠外シュート1本だけだったが、後半は世界屈指のGKノイアーから枠内シュート3本で2ゴールを挙げた。4バックから3バックに変更して立ち位置を変えたことで、フリーになる選手も増えてパス成功率は前半の66%から後半は88%にアップ。1本のシュートを放つのに要したパス数も日本18本、ドイツ26本。後半からドイツ守備陣の背後を突くロングボールなどで効率良く攻めた。

パス成功率95%超 冨安で落ち着いた

後半、ミュラー(右)をマークする冨安(撮影・横山健太)
後半、ミュラー(右)をマークする冨安(撮影・横山健太)

DF冨安は安定したパスワークが際立った。後半から途中出場して3バックの左に入り、45分間の出場で総パス数21本で成功20本。成功率は95・2%に達した。日本の前半のボール保持率は18%で、反撃の糸口さえつかめなかったが、冨安は「前半は奪ったボールをすぐに失ってしまうことが多かった。そこを落ち着かせて自分たちの時間をつくることを意識した」。ドイツの急所を突くような縦パスも効果的で鎌田に3本、三笘に2本のパスを供給して攻撃を加速させた。後半30分、堂安の同点ゴールは象徴的。冨安の三笘への丁寧な縦パスが起点だった。

PK以外耐えに耐えた権田

GK権田のシュートセーブ
GK権田のシュートセーブ
後半、ドイツ・ニャブリのシュートをブロックするGK権田(撮影・横山健太)
後半、ドイツ・ニャブリのシュートをブロックするGK権田(撮影・横山健太)

ビッグセーブを連発したGK権田がマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。ドイツに25本のシュートを浴びたが、1点を追う後半24分44秒からの18秒間で4連続セーブを記録するなど計8度のシュートストップ。前半に与えたPKはど真ん中に決められたが、それ以外は右へ左へ鋭く反応した。FIFAの公式データによると、権田の動きのトップスピードは時速22・5キロ。「どういう状況であっても枠に飛んできたシュートを止めることしか僕の存在意義はない」。日本のW杯出場GKは川口、楢崎、川島に次いで4人目。耐えに耐えて逆転勝利を呼んだ。

 
 

【評】日本は後半に投入された選手が活躍し、逆転勝ちした。前半に先制点を許したが後半30分に同点ゴール。三笘のパスを受けた南野がゴール前へクロスを入れ、GKがはじいたボールを堂安が左足で蹴り込んだ。さらに8分後、板倉からの縦パスを受けた浅野が持ち込み、右足で決めて勝ち越した。ドイツは前半に圧倒し、ギュンドアンのPKで先制。だが後半は布陣を変更した日本に苦戦し決定機を逃した。