名場面に名言あり。サッカー界で語り継がれる記憶に残る言葉の数々。「あの監督の、あの選手の、あの場面」をセレクトし、振り返ります。

「デュエル」。「球際の争い」や「決闘」などを意味するフランス語。2015年3月にアギーレ氏の後任として就任したバヒド・ハリルホジッチ監督が日本代表選手に「戦う姿勢」を求め続けた言葉だった。

同月13日に都内で就任会見が行われた。日本代表監督を引き受けた理由を笑顔ではなく、険しい表情で「私のメンタリティーと似たものがある。厳しさ、規律、尊敬すること、真面目さ。フットボールで勝つことにおいて大事なものを兼ね備えている」と厳格な姿勢で語った。会見途中では「負けたら病気になる」と勝利への執念を見せるなど、闘争本能全開でスタート。「デュエル」を体現した熱い情熱を見せつけた。

会見では10回近く「デュエル」を連呼し、予定時間を大幅に過ぎることもしばしば。メンバー発表前に資料を持ち出して長い時間力説するなど、選手だけでなく、マスコミやサポーターにも自身の考えを伝え、一致団結を求めた。

戦う集団を作り上げてワールドカップ(W杯)アジア予選を無事に突破した。だが、ここから選手との歯車が合わなくなっていく。17年10月の親善試合では、調子が上がっていないという理由でチームの中心メンバーだった本田と岡崎を外すと、直後の欧州遠征では香川も入れた「ビッグ3」を呼ばない強硬手段に出て、大きな議論を呼んだ。

さらに選手との亀裂が生じたのが、同年12月に国内組で挑んだ東アジアE-1選手権の韓国戦。1-4で大敗した直後の会見で「韓国の方が格上だ。試合前から日本より強いと分かっていた」と恥じる様子を見せず。戦う前から指揮官が掲げる「デュエル」は存在しなかった。もちろん選手の耳にも届き、求心力は完全に地に落ちた。

W杯イヤーとなった18年からは選手からの不協和音が続出。同年4月9日、日本サッカー協会(JFA)は監督交代に踏み切った。後にハリルホジッチ監督はJFA相手に不当な解任として謝罪を要求する「1円訴訟」を起こして戦い続けたが、W杯では「デュエル」を見せることができずに終焉(しゅうえん)となった。