箱根駅伝を知り尽くす「ツウ」たちが、来年1月2、3日の第92回大会を前に独自の視点で語る連載「箱根のミカタ」の第3回は、ものまねアスリート芸人のM高史(31)。川内優輝のそっくりさんで注目されたが、自身も強豪・駒大駅伝部出身。3、4年時は監督と選手の橋渡し役でもある主務として選手を支えた。

 「男だろ!」。テレビ中継で、駒大の大八木監督の掛け声を聞いたことがあるかもしれません。運営管理車。かつては監督車ともいわれていましたが、選手と伴走し、監督が指示を出します。各区間の1、3、5、10、15、20キロ、残り3、1キロ。その地点で1分以内、監督は拡声器のハンドマイクで指示を送ることが許されているのです。

 駒大3、4年のとき、主務として監督と一緒に運営管理車に乗りました。4年だった07年の最終10区、治郎丸健一(現桜美林大コーチ)が走ったときです。同級生の親友を車内で必死に応援していると、大八木監督から「やっていいぞ」と初めてマイクを渡されました。厳しい監督の温情に「最後だぞ」「4年生だ」「仲間の分まで」。涙をためながら熱く叫びました。

 7位でタスキを受けた治郎丸は冷静に順位をキープし、8位以内のシード権を確保しました。レース後、治郎丸に尋ねると「全然聞こえなかったよ」と一言。実はその年の運営管理車のスピーカーは車の後ろに付いていたのです。選手の後ろから指示を出していたため、あまり選手に声が届かなかった。以来、スピーカーは車の前に付くようになったらしいですが。

 監督は走りをアドバイスし、他校の選手とのタイム差を伝えます。駒大の大八木監督はタイム差を言うときは、選手によって3~5秒替えて言っていました。他校との差を30秒から27秒につめたときに「25秒」と。選手が気持ち良く走るための心遣いなのです。

 指示の出し方は監督によって個性が出ます。時間は各地点で1分。大八木監督は「男だろ」「気持ちだ」「頼むぞ」と短い言葉で思いを託します。信頼関係があるからこそ、言葉掛け1つで選手のハートに火が付く。テレビの前で耳を澄まして監督の指示を聞くと、別の箱根駅伝の楽しみが増えるかもしれません。【取材・構成=田口潤】

 ◆M高史(えむ・たかし)本名三上高史。1984年9月28日生まれ、東京都杉並区出身。世田谷学園中・高を経て駒大入学。2年からマネジャーに転向し、3、4年時は統括の主務。卒業後、知的障がい者施設の職員を経て11年12月から芸人。B’z、平井堅、川内優輝のものまねで注目された。