“腹筋ガール”が女子マラソン界のニューヒロインに躍り出た。昨夏の世界選手権女子1万メートル代表で、初マラソンの松田瑞生(22=ダイハツ)が2時間22分44秒で優勝した。躍動感あるフォームで31キロ手前で先頭に立ち、日本歴代9位、初マラソン歴代3位の好記録。20年東京五輪(オリンピック)代表2枠を決めるグランドチャンピオンシップ(GC)の出場権を獲得した。同大会を初マラソンで制したのは92年小鴨由水、01年渋井陽子以来3人目だった。

 両手を広げて松田は、フィニッシュテープを切った。右拳を握り、叫んだ。地元・大阪の大声援を背中に受け、マラソン初挑戦ながら、日本歴代9位となる2時間22分44秒。林監督に続き、グラウンドに下りてきた鍼灸(しんきゅう)師の母明美さんと抱き合った。感動的な場面かと思いきや「どこにおったん? 声出せ~」と苦手な寒さ対策にレース2日前と前日におきゅうをしてもらった母を“一喝”し、笑いを誘った。会見では「超楽しかった。次に挑戦する時はもっと笑えるように練習を積みたい」と喜んだ。

 明るい性格とは裏腹に頭は冷静だった。20キロ付近の安藤が給水を取り損ねた時には「正々堂々と戦いたい」と自らのボトルを渡した。前田、安藤との三つどもえの25キロ付近。前田がペースメーカーを追い抜き、逃げた時も「何でこんなに早く出ていくのやろ。大丈夫かな」と焦らない。勝負どころを見極め、31キロ手前で先頭に立ち、逃げ切った。

 トレードマークは体が反る悪癖を修正するため、大阪薫英女学院高時代から鍛えてきた腹筋だ。10種類以上、毎日腹筋500~1500回を行う。毎朝、鏡の前での腹筋チェックは欠かさない。この日も終盤の苦しい場面で腹筋に力を入れ、フォームが修正されたという。今後も「腹筋を鍛え直して、走れるようにしたい」と笑う。そんな松田も3歳時には腎盂(じんう)炎で、週に1度は通院し、10年ほど塩分など食事制限をしていた。決して体が強くなかった少女が42・195キロを最速で駆け抜けた。

 小6の時に埋めたタイムカプセルには「10年後の私に宛てた手紙」があった。そこには「マラソンで五輪に行く夢はかなっていますか?」と書いてある。当時はバスケットボールと柔道を習い、地区のマラソン大会で優勝した経験はあっても陸上部ではない。それなのに記した夢に1歩近づいた。「まだ通過点」と松田。キャラだけでなく、実力も十分だ。【上田悠太】

 ◆松田瑞生(まつだ・みずき)1995年(平7)5月31日、大阪市生まれ。大和川中ではバスケットボール部主将だった姉友里さんにお願いされ、同部に入る。姉が卒業した中2から陸上を始める。大阪薫英女学院高時代は3年連続で全国高校駅伝に出場。14年ダイハツに入社し、17年日本選手権女子1万メートルを優勝。1万メートル自己記録は31分39秒。趣味は岩盤浴、カフェ巡り。158センチ、46キロ。