30キロ過ぎ、2位につけていた鈴木亜由子(27=日本郵政グループ)は時折白い歯を見せ、笑顔のような表情になった。余裕かと思われたが、実は苦しさのサインだった。「口角が上がって笑ってるように見えるだけ。足が動かなかった。今までで1番長い10キロでした」。40キロで33秒あった3位との差がゴール時は4秒。1人で歩けないほどになり、心配で駆けつけた母由美子さんは「あの白い歯が出たらいつもダメなんですよ。ヒヤヒヤしてました」とホッと胸をなで下ろした。

学生時代からトラック競技で日本を引っ張り、16年リオ・オリンピック(五輪)にも出場。その後、所属先の高橋監督から東京五輪の可能性を広げるため、マラソン転向を勧められた。才能はすぐに開花。昨年初マラソンの北海道で独走Vを飾り、MGC出場を決めた。転向後わずか2戦での五輪出場に「苦しい展開の中、2位だったのは練習の成果」と振り返った。

「亜由子計画」を掲げ、寮に高圧酸素カプセルと栄養士を付けてもらうよう頼み込み、サポートしてくれた高橋監督が今春、甲状腺ホルモンが過剰に作られ、身体に不調が起きるバセドー病で休養。1カ月前に復帰した恩師に五輪切符獲得が、これ以上ない良薬となったはずだ。

それでも優勝した前田とは約4分差。世界と戦うには後半の失速が課題だ。「追い付こうと思ったけど全然ダメ。マラソンの怖さを知った。質の高い練習をしないと」と反省。高橋監督も「前田さんみたいな走りじゃないとメダルは取れない」と厳しい表情を見せた。恩師と2人で本番での表彰台を目指す。【松熊洋介】

◆鈴木亜由子(すずき・あゆこ)1991年(平3)10月8日、愛知県豊橋市生まれ。時習館高-名大-日本郵政グループ。小学生で陸上を始める。名大4年時のユニバーシアードで1万メートル金、5000メートル銀。15年世界選手権では5000メートル9位。旧帝大出身女子初の出場となった16年リオ五輪は5000メートルに出場。初マラソンとなった18年北海道では2時間28分32秒で優勝し、MGC出場権を獲得。154センチ、38キロ。