2024年パリ・オリンピック(五輪)へ、日本マラソン界の新星が底知れぬ可能性を示した。

一般参加の吉田祐也(23=GMO)が日本歴代9位タイとなる2時間7分5秒の好タイムをマークし、2度目のマラソンで初優勝を飾った。青学大4年の今年1月、引退レースのはずだった箱根駅伝で区間賞の力走で総合Vに貢献。大手菓子メーカーのブルボンへの就職が内定していたが内定を辞退し、GMOに入社し競技を続ける。パリへの物語はまだ始まったばかりだが、背中を押してくれたブルボンも喜ぶ快走だった。

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一般参加の白いゼッケンが黒いユニホーム姿に映える。ナンバー11は1並び。そんな吉田が快走した。実業団入りしてからは初、自身2度目のマラソンで堂々たる走り。ペースメーカーが離れた30キロ過ぎ、前年2位の藤本拓との一騎打ちになるかと思われたが、実績上位の相手を一気に突き放す。コロナ禍で海外招待選手がいない中でも、自ら動いてそのまま押し切った。強かった。「タイムよりも順位を狙っていた。100%の力を出せた。福岡で優勝してGMOをアピールすることが1つの目標だった」と、所属先に感謝した。

今年1月の箱根駅伝4区、最初で最後の出場で区間新を樹立し青学大の総合Vの立役者となった。2、3年時はアンカーの控えで、メンバー外11番手の選手だった。それでも腐らずに練習に打ち込み、努力を実らせて自らの陸上人生も切り開いた。卒業後は、大手菓子メーカーのブルボンへの内定をもらっていた。陸上競技は大学が最後と決めていた。当初、箱根路を花道とするはずだったが、原監督の誘いもあって臨んだ2月の別府大分毎日マラソンで日本勢トップの3位。初マラソンとしては日本歴代2位となる2時間8分30秒の好記録を出したことで、競技続行を決意した。

ブルボンには丁寧に辞退の連絡を入れ、納得して背中を押してもらった。この日の快走に、陸上ファンがSNSで「ブルボンさん、ありがとう」とつぶやいた。本来なら、入社しサラリーマンとして仕事に“走り回っている”はずだった逸材は、24年のパリに向けてひた走る。土壇場での申し出を快諾し、日本マラソン界の宝を陸上の世界へと送り戻したブルボンの関係者は日刊スポーツの取材に「日本歴代9位の成績と聞いて非常に喜ばしいです。今後の活躍を我々としても期待し、応援させていただきます」と大喜びした。

日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーも現役続行へと背中を押した張本人。「箱根で選手生活をやめると言っていたから、『もったいない。続けたらどうだ』と伝えた。そしたらこの日の走りにつながった。言って良かった」と、こちらも笑顔をみせた。

努力家で研究熱心。コロナ禍で外に出られない時間は、陸上の論文を読み込んで理論を独学。所属のGMO花田監督は「私の仕事は彼の練習を止めること」と話すほどの取り組みが武器だ。一気に存在感を示した日本マラソン界のホープは「最終的にはオリンピックが目標」と言う。人生は分からない。決断1つで、一気に世界が変わる。吉田の可能性あふれる走りは周りを笑顔にし続け、道を切り開いていく。【奥岡幹浩】

◆吉田祐也(よしだ・ゆうや)

▽生まれ 1997年(平成9)4月23日、埼玉県東松山市出身。

▽競技歴 松山第一小-東松山東中-東農大第三高-青学大-GMO。

▽自己記録 マラソン2時間7分5秒、ハーフマラソン1時間3分19秒、1万メートル28分19秒7、5000メートル14分2秒18。

▽箱根駅伝の成績 2年と3年時はいずれもアンカーの補欠。最終学年に初めて出場し、4区で区間新を樹立。

▽初マラソン 20年2月の別府大分毎日マラソンで日本勢最高の3位に入った。2時間8分30秒は初マラソンの日本歴代2位。

▽サイズ 164センチ、47キロ。

◆ブルボン 本社は新潟県柏崎市。ビスケット、クッキーが有名で「ルマンド」「チーズおかき」などの定番商品がある。スポーツでは水球に力を入れており、10年には「ブルボンウォーターポロクラブ柏崎」の創設に尽力。日本選手権に優勝するなど、国内では最有力クラブになっている。日本代表のオフィシャルスポンサーでもある。