この夏、新型コロナウイルス感染拡大のまっただ中に東京オリンピックが開催された。東京・立川では7月13日から25日までの約2週間、事前キャンプを敢行し、北中南米とカリブの各国で構成されているパンアメリカンスポーツ機構(パンナムスポーツ)26カ国の4競技120人を迎え入れた。

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立川事前キャンプを主導的に運営したのは、不動産事業の民間企業「立飛ホールディングス(HD)」だった。2018年11月にパンナムスポーツ機構と交流事業の調印を交わし、コロナ禍を乗り越えて、事前キャンプを実施した。パンナムスポーツ交流プロジェクト運営委員会の副委員長を務めた立飛HD刈屋富士雄スポーツプロデューサー、現場を統括した同社の那須泰孝執行役員に聞いた。(以下敬称略)

-ホストタウンは全国に533。地域住民と選手との交流を、3割以上のホストタウンでは中止となったという。そんな中、実施

那須 日に日に状況が悪化していた。世論も、五輪そのものも事前キャンプについても、かなりアゲンストの風が吹いていました。それでも、政府の指針をきちんとクリアして対応できる手応えを感じて、専門家の人たちと共同でしっかりとした準備が出来た。結果論ですけど、罹患(りかん)者も1人も出ないで終わりましたし、ホッとしましたね。

刈屋 選手と接して再確認したことは、外国の人たちは日本のことを信頼していた。「日本はきちんと感染対策をするから事前キャンプをしてくれるはずだ」と信じて疑わなかった。感染者が増えてきて、命が最優先なのは議論する余地がない。ただ、それを優先した上で、できるための最大限の努力があると、1歩も揺るがなかった。

-交流は構想から縮小

那須 そこは残念ではありましたけど、オンラインで相当な頻度で行えましたし、子どもたちの記憶にはしっかり残っていると思います。

-レガシーについて

那須 パリ五輪に向けて今、パンナムとの継続的な取り組みをいろいろ検討中です。事前キャンプでも、練習パートナーを提供した柔道では、「こんな練習しているのか」「大変勉強になった」と、評価が高かった。中大さんの施設も含め、立飛HDでもアリーナ、ドームもあり、ビーチバレーも施設は常設化しています。いろんなアイデアが出ていて、レガシーづくりに向け社内外で話しているところです。

刈屋 やらなければ何も残らなかった。やったという事実が立川に残った。結局、種をまかなければ何も残らない。でも間違いなく、スポーツの新しい文化の種が、立川にまかれた。しかも国際的な。太いパイプを持った、未来への種がまかれた。それがすごく大きいんじゃないでしょうか。

◆パンアメリカンスポーツ機構 北中南米に立地する41カ国・地域の国内オリンピック委員会(NOC)の集合組織。第2次世界大戦前に設立され、1951年に総合競技大会の「第1回パンアメリカン競技大会」をアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催。以来、4年に1度開催している。略称はパンナムスポーツ。本部はメキシコシティー。