【ユージン(米オレゴン州)=佐藤礼征】女子100メートルは35歳のシェリーアン・フレーザープライス(ジャマイカ)が、23年ぶりに大会新記録を更新する10秒67(追い風0・8メートル)で2大会連続5度目の優勝を飾った。五輪を含めて同種目で通算7度目の金メダル。17年の出産を経ても「最速女王」の称号は色あせていない。表彰台はジャマイカ勢が独占した。

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母国の国旗を表す黄色と緑が映える。鮮やかに染まった髪とロングウィッグを激しく揺らした。フィニッシュライン。右手人さし指を突き上げて、勝利を確信した。女子短距離界では約14年間おなじみの光景。世界陸上で同種目通算5個目の金メダルを獲得したフレーザープライスに、会場は惜しみない拍手を送った。

「挫折した回数は想像もできない。はね返して、ここに戻ってきた。能力がないのでなく、耐えるのは正しい時期だと自分に言い聞かせてきた。今日はちょうどいいタイミングだった」

昨夏の東京五輪では、100メートルと200メートルで史上初の2冠を達成したトンプソンヘラ(ジャマイカ)に完敗した。この日は中盤からほぼ独走。今季は6月のダイヤモンドリーグで自己記録の10秒60に迫る10秒67をマークするなど、35歳となっても衰える気配はない。ジャマイカで表彰台を独占し「とても興奮している。みんなで祝うことが楽しみ」と笑った。

152センチと小柄ながら、圧倒的な加速が武器で「ポケット(小さな)ロケット」の異名を持つ。実力だけでなく個性も強い。16日に行われた予選の髪色はピンク。奇抜な髪色を、たった1日で染め直すなど、脚力以外でも観衆を魅了する。

オシャレが好きでヘアサロンを経営する実業家の一面も持つ。17年に長男ジオンくんを出産。1児の母となっても、18年の復帰後もトップに君臨し続ける。

「35歳で競技を続け、赤ちゃんを産んだ。女性たちが自分の旅をできるように、インスピレーションを与えていると祝福されているように感じる」。6度目となる世界選手権で通算10個目の金メダルに輝いた女王は、強さと美しさを世界に発信し続ける。

◆シェリーアン・フレーザープライス 1986年12月27日、ジャマイカ・キングストン生まれ。ジャマイカ工科大の在学中だった21歳の時に、キャンパス内で練習していたクラブに加入して陸上競技を始めた。08年北京五輪ではジャマイカ人女性として初めて100メートルの金メダルを獲得。152センチ、57キロ。