世界の表彰台が見えた! 男子110メートル障害決勝で21年東京五輪代表の泉谷駿介(23=住友電工)が、自らの日本記録を0秒02更新する13秒04(向かい風0・9メートル)をマークした。

昨年の世界選手権(米オレゴン)金メダル・タイムまで100分の1秒という大記録で、06~08年の内藤真人以来15年ぶりの3連覇を果たした。参加標準記録を突破していた高山峻野(ゼンリン)も2位に入り、世界選手権(8月19日~27日、ハンガリー・ブダペスト)の代表に内定した。

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序盤こそ隣を走る高山に先行されたが、泉谷は焦らなかった。4台目で肩を並べるとさらに加速した。ハードルを越えるたびにスタンドから「おっ、おっ」という声が上がる。ライバルを後方へと置き去りにし、最後は約2メートルの差がついていた。

自ら更新する13秒04の大記録。「素直にうれしい気持ちでいっぱい」とフレッシュな笑顔で答えた。

つい2週間前のセイコー・ゴールデングランプリ(GGP)で13秒07(追い風0・8メートル)を記録したばかり。その今季世界2位の好タイムをさらに塗り替え、昨夏の世界選手権銀メダル相当の激走だ。「実感がないというか、急にここまで来ちゃったという感じ」と驚いた。

体格に恵まれない日本人には壁が高いと言われてきたが、それもプラスに捉えている。

「(175センチと)身体が小さい分、素早い動きができる。身体が大きい人は(ハードルとの距離が)つまりやすいので、うまくさばけたり細かい動きができるのは強み」

スムーズなハードリングに磨きをかけ、12秒台という夢の記録ももう目前に迫った。

「まずは今まで達成できなかったファイナルを目指してやっていく」と誓う。東京五輪は13秒35と100分の3秒及ばず、決勝進出を逃した。昨夏のオレゴン大会でも13秒42の5着となり、再び準決勝敗退。

だが今季は好調で「この短期間で13秒0台を2本そろえられているのは自信になってる」。30日にはスイス・ローザンヌで開催される世界最高峰シリーズ「ダイヤモンドリーグ」に出場し、世界への足がかりとする。

この日、日本陸連の理事会が行われ、世界選手権で3位以内に入れば24年パリ五輪の代表に内定することが発表された。同種目初の表彰台とともに五輪への視界も一気に広がる。

そんな大きな目標達成に向け、技術というよりも「最後は気持ち」と覚悟を決めている。

「自分は気持ちに左右されるタイプなので、ここで自信をつけられたのは大きい」

自分を更新し続ける若きハードラーは、どこまでも貪欲に新たな道を開拓していく。【竹本穂乃加】

◆男子110メートル障害の日本勢 五輪、世界選手権とも決勝に進出した日本人はいない。世界選手権では01年大会で内藤真人が初めて準決勝に進出して以来、内藤の計4度をはじめ、田野中、高山、泉谷、石川らが準決勝で敗退して決勝進出を逃した。五輪では21年東京大会で泉谷が準決勝に進出したが、3組3着で、わずか100分の3秒、決勝に届かなかった。

<泉谷駿介(いずみや・しゅんすけ)>

◆生まれ 2000年(平12)1月26日、神奈川県生まれ。

◆経歴 横浜緑が丘中、武相高を経て、18年に順大へ進学。22年に住友電工に入社。

◆主な成績 19年世界選手権代表に初選出されたが、現地入り後に右太もも裏の肉離れで欠場。21年日本選手権で日本人初の13秒0台(13秒06)で東京五輪代表入り。五輪は同種目日本勢57年ぶりの準決勝進出。22年世界選手権では準決勝で2組5着(13秒42)となり、決勝進出を逃した。

◆他種目の自己ベスト 走り幅跳びが8メートル00、3段跳びが16メートル08。

◆陸上の魅力 「競り合う競技のため、見ていてハラハラするところ」。

◆好きな食べ物 海産物。

◆趣味 ウエートトレーニングと温泉。

◆身長 175センチ