サニブラウンの2大会連続決勝進出は、素晴らしいのひと言に尽きる。

準決勝でフレッド・カーリー(米国)が敗退している。前回大会の優勝者ですら、決勝に残れない。それが世界のファイナルの重みを象徴している。

サニブラウンの準決勝2着通過には驚いた。スタートから10メートルの1次加速で出遅れることがなかった。そして顔を上げるまでの2次加速もしっかりできた。予選もそうだったが、顔を上げた時には先頭集団の頭に出ている。サニブラウンはスタート(が武器の)型ではないので、その後の減速率も少ない。先頭のライルズ(米国)ともそんなに離れていなかった(追い風0・3メートルで9秒97)。追い風2メートルが吹けば、9秒8台が出ておかしくないような走りだった。

前回大会の決勝は(各組3着以下の)タイム順で救われたが、今回は着順。着順で通過するとメンタルの疲労度がかなり違う。戦う姿勢としては維持しやすい。

もともとスタートが課題ではあった。(17年、19年)世界選手権の準決勝で敗退した時はスタートで出遅れている。世界の決勝で戦うためには出遅れると、大きなダメージになる。その課題に対し、トレーニングでさらに磨きをかけてきた。9秒9台を安定して出せるアスリートだと感じた。

決勝は、上位選手の号砲への反応速度(リアクションタイム)が速くなった。スタートの集中が違った。(92年バルセロナ五輪400メートル8位の)高野(進)さんはいつも「決勝だけが唯一、全員が全力で走る場」と言っていた。それまでは力ある人はセーブする。

決勝のサニブラウンは若干、顔を上げる位置が早かったかもしれないが、上げた時には前に人がいた。

短距離では心理的なものがかなり大きなウエートを占める。顔を上げた時に、自分がイメージしていたよりも選手が前にいると、すべての組み立てが狂ってしまうもの。頭で考える前に、体が反射的に反応してしまう。彼が何か大きなミスをした、というのは、決勝レースを見た限りでは感じるのは難しい。

ここは9秒8台と9秒9台の違いといえるだろう。決勝のタイムは2つに分かれている(9秒8台とそれ以下)。彼が望むメダルには、やはり(自己ベスト)9秒8台をひっさげてスタートラインに立つこと。それができる選手だと思うし、よりこまめな練習に取り組むだろう。

パリ五輪に向けては、200メートルもセットにしてほしい。もともと世界選手権で初入賞は200メートル(15年)。また上位3人は200メートルで19秒台の記録を持つ。上位選手の後半での安定したスピード維持を見た時に、やはり200メートルも重要だと感じる。200メートルがセットになってくれば、100メートルのメダルは、より現実味を帯びてくるだろう。

400メートルリレーは、日本の金メダルがかなり見えてきたと思う。日本記録(44秒77、佐藤拳太郎)が出た男子400メートル、同400メートル障害を見ても、周回で回るスプリント種目にとって、好条件が重なっている。アメリカはもちろん強いが、スピードが上がるトラックでは、バトンワークが難しくなる。その意味で、バトンの正確性がある日本の強みを出せる条件が整っている。(男子100メートル元日本記録保持者)