世界ランキング1位の北口榛花(25=JAL)が63メートル78で、日本勢初優勝を果たした。世界最高峰シリーズのダイヤモンドリーグ(DL)年間上位者で争うファイナルで、前回の3位を上回る快挙。同種目ではアジア勢初Vとなり、8月の世界選手権に続いて再び世界一に輝いた。これで今季のDLは5戦4勝。変化を恐れず、すでに内定している来夏のパリオリンピック(五輪)へ突き進む。

2投目を迎えた北口はその場で足踏みし、スピードに乗って走りだした。右足にためた力を左足へ。スムーズな重心移動からやりを放ち、63メートル78を飛ばしてみせた。「今日必要だったのは勝つこと。この場で勝てたことが、すごくうれしい」。その投てきは、金メダルをつかんだ世界選手権から変化を経たものだった。

今月8日のDL・ブリュッセル大会。67メートル38の日本新記録を打ち立てた一投は、やりを放った瞬間に体勢が崩れた。世界選手権と比べ、左足が踏ん張れていないようにも見える動き。20年秋から体の使い方などを助言してきた足立和隆氏(元筑波大准教授)は「力をさらにやりへ伝えられた」と説く。野球の外野手が勢いよく送球する時のような足の動かし方をすることで、距離を伸ばしたという。

変化を恐れない。今季はその姿勢を貫いてきた。6月の日本選手権で2位に終わると、自分の判断で19年時の助走法へ回帰。走りだす時に足踏みし、リズムのある動きを意識した。さらに「自分の武器は体の柔らかさ」と、あえてトレーニングの負荷を7割程度に低減。その結果、DLで5戦4勝と圧倒的な成績を収めた。この日のファイナルではそれほど体勢が崩れなかったが、足立氏は「投げ方の引き出したが増えたのでは」と期待を寄せる。

金メダル候補筆頭で迎えるパリ五輪へ、北口自身も現状に甘んじるつもりはない。「他の選手もまた一段上げてくる。それについていけるようにしたい」。世界王者は歩みを止めない。【藤塚大輔】

◆北口榛花(きたぐち・はるか)1998年(平10)3月16日、北海道旭川市生まれ。小6時にはバドミントンの全国大会で団体優勝。旭川東高1年までは競泳と陸上の二刀流。15年世界ユース優勝。日大へ進学後の19年からダビド・セケラク・コーチに師事。21年東京五輪12位、22年世界選手権で銅メダル。23年7月のDLシレジア大会で67メートル04の日本新記録を樹立すると、8月の世界選手権は66メートル73で金メダル。9月8日のDLブリュッセル大会でも67メートル38をマークし、日本記録を更新。父の幸平さんはパティシエで、ヘーゼルナッツが実る「榛(ハシバミ)」が名前の一部になっている。179センチ。

◆ダイヤモンドリーグ(DL) 09年まで国際陸連(現世界陸連)が主催していたゴールデンリーグとスーパーリーグが統合され10年に新設。例年5~9月に欧州、北米、アジアの14都市で開催。国や地域ごとの枠に制限がなく、強豪国の選手で占められるため、世界最高峰と呼ばれる。23年の年間総合優勝者には賞金3万ドル(約435万円)とダイヤモンドトロフィーを贈呈。