10月11日に「水泳の日2020~TOKYO~」が東京・辰巳国際水泳場で開催され、私も元競泳選手として参加してきた。競泳の種目別レッスンや、東京都水泳協会の北島康介会長も参加してのメドレーリレー(25メートル×4)、さらに飛び込み、アーティスティックスイミングのレッスン、特別演技、ニチレイチャレンジ泳力検定会も行われた。


「水泳の日」に参加した元選手たち。左から3人目が筆者
「水泳の日」に参加した元選手たち。左から3人目が筆者

久々の水泳のイベントだった。コロナ禍の現状を踏まえ、レッスンの人数を制限し、来場者もかなり制限した。会場に入るためには、2週間の体温、体調を記録したものを提出、または、その場で記入することを徹底した。

私たちも「Swimming Town」というスマートフォンのアプリでこの日までの体温と体調を記録した。当日も会場入りする際に検温し、このアプリからQRコードを読み取って、入場可能かどうかを判定された。

今までとは異なった努力が必要だ。無事、予定していた元選手たちは全員参加できた。


この「水泳の日」は、水泳の普及のために始まった。だから、多くの水泳を楽しむ人たちに参加してもらいたいのが本音だ。しかし、今は健康第一、安全第一で、人数制限せざるを得ない。水泳指導もマスクをして行った。消毒をこまめにして会場の換気も行った。プールから上がってからは少し肌寒い。いろんな意味で今までとは違う。

でもそんな中、気心の知れた、苦楽を共にしてきた仲間との時間は楽しかった。引退して10年弱もたつが、長い間一緒に過ごした仲間は、いつ会っても今も一緒にいるような気分になる。

北島会長が、子供たちに最後に言った言葉がある。

「ここに立っているオリンピアンはみんな苦しいことをやってきている。でもその前提にあるのは、水泳が楽しいということ」

このコメントはすごく心に残った。「本当に苦しかったなあ」と感じたから。それを楽しくしてくれたのは、一緒に泳いだ仲間がいたからだ。

そもそも、水泳を始めた小学校の選手コース時代、楽しかったのは「プールの友だち」と会うことだった。練習は二の次。先生からは厳しいことも言われたし、合宿というだけで小さい時は泣いていた。だけど、続けてこられたのは一緒にプールに入る仲間がいたから。

今は私たちの幼少期と比べて選択肢も多く、できることも幅広い。一生懸命やることは本当に大切なことだが、小学生のうちは、楽しくいろんなことをしてほしいと思う。

年齢を重ね、レベルが上がれば上がるほど、苦しくなるときは来る。小学生のころから苦しいと、「結果」だけが頼りになり、結果が出ないと何も楽しくなくなる。そうではなく、そのスポーツの中で楽しいことを見つけていく作業をしてほしい。そうすれば、本当に苦しくなったとき、信頼する人に頼ったり、さまざまな方向から解決していく力が身につくのではと感じる。

10~12歳で運動神経は作られるともいわれている。この日のイベントでは、そんな大事な時期の子供たちが目を輝かせ、私たちの話を一生懸命プールの中から聞いてくれた。

子供たちのまだ見ぬ未来に期待しすぎてしまうこともあるかもしれないが、この目の輝きがずっと続いてほしい。そのためには、大人の努力も必要だ。私は競泳というスポーツを通じて、たくさんの人生の豊かさを養うことができたと感じている。多くの子供たちにも経験してほしいと心から思う。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)