刑事裁判においては「疑わしきは罰せず」が大原則だが、ドーピングの世界では「疑わしきは罰する」になる。競技力を高める意図がなくとも、禁止物質が体内から検出されれば、ペナルティーは逃れられない。

16年リオデジャネイロ・オリンピック(五輪)に出場し、陸上女子1500メートルと5000メートルの米国記録保持者であるシェルビー・フーリハン(28)が、ドーピング違反で東京五輪に出場できなくなった。スポーツ仲裁裁判所から1月14日から4年間の資格停止処分を受けたためだ。パリ五輪出場も絶望的となったフーリハンは抜き打ち検査で、禁止物質で筋肉増強作用のあるナンドロロンが検出されていた。本人は、自宅のある米オレゴン州のワゴン車販売で購入し、検査の約10時間前に食べたメキシコ料理・ブリトーに使われていた豚肉に禁止物質が含まれていたと主張している。

フーリハンがナンドロロンを摂取したのが、実は意図してか、本当に図らずしてかは不明だが、“うっかりドーピング”は、アスリートが気を留めなくてはいけない点の1つだ。他競技も含め、過去には食肉から違反となった例のほか、ヒゲの育毛剤、サプリメントなどから違反になったケースも存在する。

ドーピング検査では体内に入った物質は原則、選手の責任とされる。

そして今までは使用できた薬でも、禁止と変わっている場合もある。例えば、最近では口内炎の薬に注意が促された。3月22日以降、競技会時に「糖質コルチコイド」が含まれたものは使えなくなった。競技会時とは、前日午後11時59分から競技会に関係する検体採取手続き終了までの期間を指す。これに伴い、多くの口内炎用の軟こうや貼り薬はアウトになった。処方箋がいらないドラックストアに行けば、普通に買える品がたくさん含まれている。一例を挙げる。(4月時点)

× 「クイックケア」(大正製薬)

× 「オルテクサー」(福地製薬)

× 「アフタッチA」(佐藤製薬)

× 「ケナログ軟膏」(ブリストル・マイヤーズ)

× 「トラフルダイレクト」(第一三共)

など

これらは競技会時は「禁止」だが、競技会の外ならば、使うことができる。

逆に競技会の時でも、使えるものある。

○ 「サトウ 口内軟膏」(佐藤製薬)

もしも、過去に使ったことがある場合は、最終使用日、商品名、使用期間など服用履歴の記載しておく事が身を守ることになる。口内炎の治療は、各競技団体の医事委員会の担当者に相談してからの方がいいとしている。

たかが口内炎ではあるが、それが対処を間違えば、取り返しの付かないことにもなりかねない。

アスリートってこんな所にまで気を使っているのか…。そう少しでも知ってもらえれば、幸いである。【上田悠太】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆上田悠太(うえだ・ゆうた)1989年(平元)7月17日、千葉・市川市生まれ。明大を卒業後、14年入社。芸能、サッカー担当を経て、16年秋から陸上など五輪種目を担当。