男子グレコローマン59キロ級で昨年の全日本王者の文田健一郎(21=日体大)がリオデジャネイロ五輪銀メダリルの太田忍を下し、初の世界選手権(8月、パリ)代表入りを果たした。

 5年前、文田親子がロンドンでまばゆく映った金メダルへの道が、代々木ではっきり見えた。決勝相手は日体大の先輩太田。リオ五輪銀メダリストに、父敏郎さん(55=韮崎工高レスリング部顧問)直伝の必殺反り投げを決める。ポイント2-2からの投げは敏郎さんへの恩返しでもあった。

 中学から取り組んだレスリングは父の手ほどきから始まった。敏郎さんはロンドン五輪フリー66キロ級金メダリスト米満を韮崎工高時代に指導。文田親子はロンドンへ米満の応援にかけつけ、その目に刻んだ。この日、同点から放った投げで試合は決まった。文田は「大学の時に僕の投げは研究されて、それまで決まった技が決まらず、悩みました。でも、行き詰まった時、好きな技を突き詰めようと。胸を合わせるまでの技術を磨きました」と苦しかった日々を振り返った。

 同じグレコで国体まで出場した敏郎さんの言葉は「投げてなんぼ」。その考えを礎に「投げる」ことを極めようと努力してきた日々が結実した。試合後、うれしそうな父を見て文田はメダルを外し、父の首にかけた。「おめでとう」。敏郎さんの短いことばを文田はうれしそうにかみしめた。

 視線の先にはパリがある。敏郎さんはこの春、迷わずパリ往復の航空券を購入していた。あの日、ロンドンで親子で眺めた風景を今度はスタンドから父が見詰める。視線の先に「投げ」で世界に挑む息子の姿があるはずだ。【井上真】

 ◆文田健一郎(ふみた・けんいちろう)1995年(平7)12月18日、山梨県韮崎市生まれ。韮崎西中1年からレスリングを始める。父敏郎さんが監督する韮崎工高に進み、高校8冠。16年の全日本選手権男子グレコローマン59キロ級で初優勝。5月のアジア選手権初優勝。168センチ、59キロ。趣味は猫カフェに行くこと。