最後のレースで快勝した田山寛豪(36=NTT東日本・NTT西日本・流通経大職)は「最も印象に残るのは、今日のレースです」と涙で真っ赤に目を腫らして話した。前日に「最後のガチンコ勝負で勝ちたい」と話した日本ランク1位の古谷純平(26)ら「打倒田山」を目指した全員を圧倒的な力でねじ伏せて11回目の優勝。「最後だから、勝ちたかった。体重も3キロ落とし、万全の状態でした」と胸を張って話した。

 「1人の力ではなく、たくさんの人の助けがあったから戦えた」と現役生活を振り返った。19歳での日本選手権制覇、4大会連続五輪出場、W杯日本人初優勝など輝かしい成績の裏で、所属チームの廃部や度重なるケガなど、挫折も多かった。それでも、多くの仲間やサポーターが手を差しのべてくれた。誰からも慕われる魅力があるからだ。

 昨年のリオ五輪前、4月のアジア選手権で代表最有力の細田雄一を破って優勝。男子1枠の代表の座を手にした。五輪直前、練習相手不足に悩む田山を救ったのは、代表の座を奪われた細田らだった。日本男子のトップ選手が集結。自腹で北海道合宿のパートナーを買って出た。「田山さんのために、僕らも一緒に戦う」と言ったのは細田。田山は所属の壁も飛び越えた異例の合同合宿で、4度目の五輪に送り出された。

 現役を振り返っての「感謝の気持ち」を、今度は後輩や日本トライアスロン界のために還元する。流通経大監督として学生たちの頑張りは認めながらも「成績はいまひとつでしたね」。男女5人が出場したが、最高は1年生の杉原有紀の女子6位。男子も1年生の小原北斗の13位が最高で、目標に掲げた「8位以内2人以上」は果たせなかった。

 14年創部で、2年目には当時2年の古山大が個人戦優勝。15、16年は団体戦で連覇を果たすなど、すでに大学NO・1の実力を誇る。もっとも、目標はさらに上の「世界のトップに食らいつく選手の育成」。そして「こいつは強い、すごいと思わせる、日本人の魂をもった選手を育てたい」と話した。

 さらに、日本トライアスロン界の「レジェンド」として競技としてのステータスを高めることも目標。流通経大はサッカーやラグビーなど7つが「重点部」として活動しているが、いまだトライアスロン部は入っていない。「サッカーやラグビーの”圧”はすごい。僕らも負けないように頑張らないと」と話した。

 「中途半端になる」と選手兼任をやめ、指導に専念する田山。来春卒業してプロになる杉原賞紀主将は、引き続き指導を受けることを望んでいる。「プロを指導するには、こちらも全力でやらないと」と決意を明かした。選手として長年に渡って日本トライアスロン界を引っ張ってきた田山だが、豊富な経験で指導者としても期待は大きい。【荻島弘一】