B1新潟アルビレックスBBで今季から広報を務めている鳥谷部(とりやべ)梢さん(30)は、球団のオンラインコンテンツによる情報発信を担当している。元なでしこリーガーで、伊賀、埼玉、熊本でプレーした実績を持つ。アスリートとしての経験と、そこから1歩離れた視点を駆使してB1新潟の盛り上げに尽力している。

練習後の体育館で選手を集めて公式動画の撮影。試合中はコートサイドからパソコンを使って配信。鳥谷部さんはチームのかたわらで頻繁に情報を集約し発信する。ファン参加型のオンラインサロン、アイドルグループNGT48がゲスト出演する公式LINEライブの開催など、球団が今季から始めた取り組みに携わっている。

「やはりお客さまやファンの方がどういったものを求めているかが大切。どの情報をどの媒体で発信すると最も効果的か考えています」。スポーツビジネスのウェブコンサルなどを行う「プラスクラス・スポーツ・インキュベーション」から今季開幕時に出向。チーム活動や試合の現場に入ったのは初めて。「勝ったらみんなで喜び、負けたら悔しがる。会場の生の雰囲気にマーケットとしての魅力を感じます」と新鮮に受け止める。

女子サッカーのなでしこリーグに身を置いた。日体大のセンターバックとして活躍し13年に伊賀に入団。埼玉、九州女子リーグの熊本にも在籍して16年のシーズンを最後に引退。その後に現在の職場に入社した。日本女子代表の主将、DF熊谷紗希(30)は同い年。聖和学園(宮城)時代に常盤木学園(同)の主軸だった熊谷と対戦した。サッカーとのつながりは深い。

「サッカーについては劣等感があるんです」。伊賀に入団して3カ月後、右ひざ半月板を痛め、手術をした。その後も復帰してはケガをする繰り返し。思ったように体を動かせないもどかしさは引け目にもなっていた。引退後、畑違いのウェブコンサルに。「サッカーの中にいると、“元なでしこリーガー”という看板で、どうしてもチヤホヤされます。そこから抜けて、自分が何ができるかを探したかった」。自分をリセットするため、ゼロからの挑戦を選択した。

ただ、培ったものは生きている。「難しいことも自分から手放すことはしない。いろいろな人から多くのものも吸収したい。サッカーをやってきたから感じること」。土台には現役時のメンタルがある。ウェブの仕事をすることで、現役女子選手やチーム関係者に情報発信のアドバイスをする機会も増えた。選手を外から支えられるものがあることにも気が付いた。

新潟に来て目が覚める思いだったのは裏方、事務方の存在。「ある意味アスリート以上にアスリートです」。バスケの試合会場設営、物販、観客への対応。試合で自己表現できる選手とは異なり、直接褒められる場面がほとんどない業務に従事するスタッフの姿に、あらためて敬意を持った。

青森出身だが、新潟の雪の多さに驚いたという。「ヒールをはく機会がないです」と苦笑い。東京で働いていた昨季までとは違い、好きなファッションに時間を費やす機会は限られる。そんな生活にも今は慣れた。「地域の方、ファンにこの街にアルビがあって良かったと思ってもらえる空間にしたい」。B1新潟のシーズンは残すところ約2カ月半。やりたいことはたくさんある。【斎藤慎一郎】

◆鳥谷部梢(とりやべ・こずえ)1991年(平3)1月4日生まれ、青森県出身。七戸小4年からサッカーを始める。七戸中では男子チームでサッカーを続けた。聖和学園ではDFで2年の時に全国高校総体ベスト4。日体大に進み3、4年とインカレ優勝。13年になでしこリーグ1部の伊賀に入団。その後、15年に埼玉、同年10月から熊本でプレーし、16年に引退。17年にプラスクラス・スポーツ・インキュベーションに入社。