フランスから見た、フィギュアスケート世界一決定戦開催の価値とは-。

日本が金メダル2個、銀メダル2個を獲得した世界選手権(3月23~27日)。その開催地はフランス南部の都市モンペリエだった。

モンペリエがあるエロー県など13の県を擁する「オクシタニー地域圏」でスポーツ担当を務めるカメル・シブリ副議長(44)が大会終了後、日刊スポーツのインタビューに応じた。

2回にわたる特集の前編ではフィギュアスケートの世界選手権開催を総括。開催地の視点から、大会がもたらせた影響を語った。【取材・構成=松本航、協力=フランス観光開発機構】

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-モンペリエでの世界選手権は盛況だった。日本代表選手も「声援が力になった」と口にしていた

「それは非常にうれしい話です。私たちオクシタニー地域圏は大きなスポーツイベントの開催に慣れています。おもてなしのホスピタリティーが根付いています。今回はモンペリエで地中海に近い位置にあり、より温かみを感じていただけたのではないでしょうか」

-開催の狙いは

「私たちの地方には海があって、山があります。一方、フィギュアが盛んな地域とは言えないかもしれません。最大の意義は国際的なスポーツイベントをオクシタニー地域圏でやることです。大きな挑戦でした。実現させることで『これだけのイベントができる』と発信する機会になります」

「大きく3つの目的があり、1つ目は経済的な効果。2つ目に素晴らしいスケーターにオクシタニーへ来ていただくことで、この地方を知ってもらうことができると考えました。最後に今回は北京オリンピック(五輪)が終わった後のタイミングでした。フランス人の愛国心を高めてくれることも期待しました。当然、フランスと日本では、フィギュアの人気が比べものになりません。日本の方にも、オクシタニーを知っていただけたらうれしいと考えました」

-フランスにおけるフィギュアスケートの立ち位置は

「フランスでも最近は人気が出てきていますが(国民的スポーツの)サッカーや、ラグビーと同じというにはまだ早い。ただ、フィギュアはとても情感に訴えるスポーツです。フランス人が好きな要素が詰まっています。(世界選手権女子で銀メダル3度の)スルヤ・ボナリー選手や(1994年リレハンメル、98年長野五輪男子銅メダルの)フィリップ・キャンデロロ選手が活躍した頃から、人気は上がってきています」

-今大会での仕掛けは

「大会で選手や関係者が飲んでいたミネラルウオーターは、地元の『オー・ヌ-ヴ』というブランドのものでした。地元を大切にし、さらには容器に紙の素材を使用することで環境にも配慮しました。地元の企業の宣伝にもなりますし、パッケージにはフランスの有名な選手を起用しました」

-容器には北京五輪アイスダンス金メダルのパパダキス、シゼロン組(フランス)が描かれていた。現地ではカワウソをモチーフにした公式マスコット「ルルー」がデザインされた飲料水も見た

「実は日本からもヒントを得ました。日本はマスコット大国。ルルーを作ったのは、子どもたちにもイベントを認知してもらいたい思いがありました。ルルーを描いた水がお気に召されたのであれば、日本にお送りしましょうか(笑い)」

-会場では久しぶりに観客の歓声を聞いた。「ウィズコロナ」が印象的だった

「今回の世界選手権は、私たちがマスクなしで大規模のイベントを開催する初めての機会でした。コロナ禍ではこういった大きなスポーツイベントが開催できなかったり、衛生パスを求めたりしてきました。そこから国も、地方も、スポーツイベントの開催団体に多額の補助金を出しました」

「スポーツはオクシタニーにとって非常に重要です。人口約600万人の半数にあたる約300万人が日ごろから親しんでいます。さらには約150万人が、何らかのスポーツの選手登録をしています。フィギュアの世界選手権は我々の地方にとって、大きなテストでした。マスクをはずした人が笑い、そこには自然な笑顔が広がっていました。喜ばしい大会だったと思います」

-その歓声が会場の「モンペリエ・アリーナ」の魅力をさらに際立たせた

「会場はフランスが持っているアリーナでもトップ3に入ります。普段は地元のハンドボールクラブが使っていますが、過去にさまざまなスポーツイベントで活用してきました。柔道の欧州選手権、ハンドボールの世界選手権などが挙げられます。マウンテンバイクなどの大会も行い、日本で人気が出ているスケートボード、BMXでも使われます。モンペリエでは『FISE』というアーバンスポーツの国際イベントも開催され、約60万人の若者が集まります」

「日本でもよく知られている柔道男子100キロ超級で154連勝した記録を持つテディ・リネール選手は、モンペリエにある柔道の技能向上センターで定期的にトレーニングを積んでいます。陸上界で著名な10種競技の世界記録保持者ケビン・マイヤー選手もモンペリエに拠点を置いています」

-そのような地でフィギュアスケートの世界選手権を開催できた意味は

「主に3つの大きな意義がありました。1つ目は大きな国際イベントを開催するポテンシャルを証明できたことです。日本を含め世界からのお客様を迎えるという課題がありました。我々の地域では、誰もが英語をマスターし、全てのホテルやレストランが国際的なレベルに合っているという訳にはいきませんが、それでもモンペリエには素晴らしいサービスを提供するホテルがいくつもあり、太陽に恵まれ過ごしやすい環境であることから、この課題は達成できたと思います」

「2つ目にアスリートが求める環境をかなえることができた。新型コロナウイルスの影響で、きちんとした状況で選手をお迎えできるか、最後まで不安があったのは事実です。ただ、それを払拭(ふっしょく)し、おもてなしができたのは大きな喜びです」

「最後に、国際イベントを開催することは、モンペリエだけでなく13の県からなる地域圏全体の価値を向上させるという意義がありました。世界選手権はモンペリエで行われましたが、我々の地域はモンペリエだけではありません。(2016年の地域再編でオクシタニーという)大きな地域圏になってから、国際イベントを活用し、地域圏を印象づけることが重要な課題になりました。スポーツイベントの優れた点は土地の知名度を印象付けられることですし、今後も世界選手権が話題になる時は『モンペリエ』の名も一緒に語られるでしょう」

「スポーツはさまざまな、いい価値をもたらします。社会的な意味、経済的な価値はもちろん、何より健康に良い。今回はフィギュアでしたが、来年には再び私たちの地方に、日本でもなじみのある、ビッグイベントがやってきます」(明日につづく)