ショートプログラム(SP)首位の宇野昌磨(25=トヨタ自動車)が3年ぶり5度目の優勝を飾り、日本初の2連覇が懸かる世界選手権(23年3月、さいたまスーパーアリーナ)の代表切符をつかんだ。

フリーもトップの191・28点を記録し、合計291・73点。2位の島田高志郎(木下グループ)に39・17点差をつけた。3位には250・84点で友野一希(上野芝スケートクラブ)が入り、4位の佐藤駿(明大)は1・20点差で表彰台を逃した。

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苦笑いの締めくくりだった。演技最終盤、宇野がスピンをしている最中に名曲「G線上のアリア」が終わった。音楽のない予想外の間に場内がざわつき、決めポーズをほどいた宇野がほほえんだ。「曲がむちゃくちゃ遅れるのは覚悟だった」。前半に失敗が続き、3連続ジャンプを最終盤へと回した。3回転半-2回転半-2回転半は時間を食う。タイムオーバーで1点減点となっても「いつもできないことをやりたい」と演技に足跡を残したかった。

慣れた最終滑走。僅差の上位争いで一喜一憂する場内の雰囲気を、冒頭、3・75点の加点を得た4回転ループで引き締めた。続く4回転サルコーは2回転となり、4回転フリップで転倒。3連続を予定した4本目を「いったん落ち着きたい」と3回転半の単発にした。巻き返しの演技後半は2本の4回転トーループを決め、練習はしていた新たな形の3連続で締めて「今後のレベルアップにつながるいい試合」と胸を張った。

6年前、同じ会場で初優勝を飾った。最終盤に3回転サルコーを着氷した瞬間、当時の樋口美穂子コーチから「いけ!」と声が聞こえた。意地で3回転トーループをつけ、その成功に泣いた。無我夢中でつかんだ頂点から経験を積み、自らの意思だけで、最後まで組み立てた。共通するのは順位に影響しない最終盤、挑戦をやめない姿だった。

国内では五輪2連覇の羽生結弦がプロに転向し、海外では北京五輪金メダルのチェン(米国)が今季の競技会を欠場している。変化の激しい五輪後のシーズンだが、宇野はゴールを定めずに今季に向かった。「ずっと自分をレベル上げしている感じなんですよ。何かを成し遂げたいからレベルを上げているわけでなく、上げていることに楽しさを覚えてやっている」。五輪、世界選手権という節目を特別視せず、見えない限界値へレベル上げを楽しむ。

年が明け、約2カ月半後には自国開催の世界選手権がやってくる。「さらにレベルアップすれば十分優勝を狙える位置にいるが、何かの大会で成績を残したいとか、そういう意志でスケートをやっていない。何を表現したいのか、何を成し遂げたいのかを追求していきたい」。23年もスタンスは変わらない。【松本航】

【フィギュア】宇野昌磨3年ぶり5度V/全日本男子フリー詳細