坂本花織(23=シスメックス)が56年ぶりの3連覇を達成した。3連覇はペギー・フレミング(米国=1966~68年)以来、56年ぶりで、史上8人目となった。

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4年前、偶然にも「ペギー・フレミング」の名前を耳にすることがあった。

コロナ禍の20年6月。日本のフィギュアスケート界に名を刻んだ選手や指導者に、自身が最も印象に残った演技を挙げてもらう連載企画「色あせぬ煌めき」の取材をしていた。そこでフレミングの名が挙がった。

関係者を通じて取材したのは大西(旧姓山下)一美さん(75)だった。68年グルノーブル、72年札幌と五輪2大会連続出場。NHK連続テレビ小説「てるてる家族」で、岩田春子のライバルとして登場した木下豊美のモデルにもなった名選手だった。そんな大西さんは「フレミングのグルノーブル五輪、フリーの演技が印象的です」と明かした。

フレミングは当時の絶対女王だった。66年から世界選手権の連覇が始まり、五輪は集大成の演技。初出場で金メダルをつかんだ。大西さんは当時を思い返す。

「体がアスリートのようにムキムキでなく、きゃしゃでモデルさんのよう。それでも当時の高度なジャンプを軽々とこなし、スピードがあって、しなやか。そして大変に表現力豊かなところに魅力を感じました」

国際舞台で競演したが、その存在は遠くに思えた。

「自分との差をすごく感じて、どういう風にトレーニングをしたら、あのようになれるのかを考えました。体の表現だけでなく、表情からも、心からの表現をするように努力しました」

現役引退後も愛娘などのスケートを指導する際に「上品な滑り」として手本に示したのが、フレミングの演技だった。同じ時代を歩んだ競技者からも憧れられる、米国のスターだった。

世界選手権3連覇、グルノーブル五輪金メダルから56年。努力を積み重ねた先にあった坂本の快挙は、先人の偉業に思いをはせる機会にもなった。【フィギュアスケート担当=松本航】

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