【モントリオール=阿部健吾】坂本花織(23=シスメックス)が女子56年ぶりとなる3連覇を達成した。ショートプログラム(SP)4位から臨んだフリーで、1位の149・67点をマーク。合計222・96点とし、逆転で頂点に立った。3連覇は歴代8人目、日本選手では初の快挙で、通算3度の優勝は浅田真央に並び日本勢最多。ロシア勢不在が指摘される中で、女王として強さを探究し続ける日々を実らせた。千葉百音が7位、吉田陽菜(ともに木下アカデミー)は8位で、来年の出場枠最大3を確保した。

会場が最も熱く盛り上がった演技の終盤で、坂本は最も冷静だった。「気持ちの高ぶりをとにかく抑えよう」。それだけを念じた。過度な感情は失敗のもとと経験則が語りかける。最後のスピンを終えるまでは自制。無事に通して「よっしゃー!」と解き放ち、演技を終えて身を震わせた。

前日も教訓が体を動かしていた。4位で終わったSP一夜明け。公式練習で幾度もジャンプを跳び続けた。「1つのミスが命取りになる」。あらためて痛感した。2月末の大会後にインフルエンザになり、練習量が低下。結果に直結した。それも経験があった。中野コーチからは「とにかく抜かずにやりなさい」と言われたが、本人が一番分かっていた。追い込んで己を叱咤(しった)した。

迎えたフリー。演技スタート時には「心臓に悪い」と練習でもない箇所でつまずいた。それでも「最初、アクセルを降りればいけるかな」と動揺とは無縁だった。世界一と称される2回転半は常に自信をくれる。頼ればいい。加点を稼ぎ「いける」と道筋が見えた。

冒頭に大技はない。北京五輪で4回転を並べたロシア勢は、ウクライナ紛争の制裁で不参加が続く。その中での勝利に「ロシアがいないから…」という声も聞こえてきた。昨年12月のGPファイナルでは「なんでアクセル(3回転半)も4回転もないのに世界女王? とすごい言われることもある。一番自分が分かってる。大技を見たければ、別に花織は見なくていいと思う」と言った。劣等感ではない。自らの武器は何か。それが見えてきた世界女王としての日々が口にさせた、誇りに近い感情だろう。

この日の会見でも、ロシアの話題は出た。笑顔でしばし考え込んだ。「もちろん帰ってきてからも勝ち続けたい。今のままじゃダメだと分かっているし、今できることを精いっぱいやって、もっともっと、自分自身のレベルを上げていけたら」。坂本の強さが詰まっていた。SP4位の苦境に「常に勝ち続けることの難しさを知った」と、また経験値を増やした。まだ先がある。

会場での優勝インタビュー。マイクがオンになってるか確かめようとたたくと、爆音が出て本人も会場も爆笑した。変わらぬらんまんさも魅力の女王。まだまだ強くなれる。

【フィギュア】坂本花織逆転Vで3連覇達成、千葉百音7位、吉田陽菜8位/世界選手権女子詳細