柔道界にも体罰問題が浮上した。女子の日本代表選手らが強化合宿で園田隆二監督(39)らによる暴力やパワーハラスメントがあったことを日本オリンピック委員会(JOC)に告発していたことが29日、明らかになった。昨年末に提出された文書はロンドン五輪代表を含む国内15選手の連名によるもので、トップ選手による集団告発は異例。体罰が社会問題となる中、柔道界だけでなく日本のスポーツ界にとっても衝撃の事件が発覚した。

 女子選手らがJOCに訴えたのは、五輪に向けた強化合宿などでの園田監督やコーチ陣の暴力、パワーハラスメントだった。練習中の平手や竹刀での殴打や暴言、けがをしている選手への試合出場の強要など、指導の実態が明かされた。

 格闘技として精神的な強さが求められる柔道では、以前から選手の心を鍛える手段として体をたたく行為が行われている。通常は背中などだが、それが頭、顔になり、さらにエスカレートすることもある。「愛のむち」かもしれないが、許される時代ではない。選手たちも耐えられなくなったからこそ、JOCへの直訴という異例の行動に出た。

 園田監督は技の研究に熱心な理論派だが、同時に情熱派でもある。熱心になりすぎるがゆえに、行きすぎて手が出たり、激しい言葉を浴びせることもあった。関係者によると、国際大会で選手を平手打ちする同監督を欧米のコーチが制止する場面もあったという。

 ロンドン五輪後、監督交代した男子に対して、女子は園田監督が留任。昨年11月の会見では、園田監督の「指導法」も話題になったが、小野沢専務理事は「しっかり、監督とも話した。(選手との)意思の疎通が十分でなかったことに関して、指導力や情熱で克服できると判断し(続投を)決めた」と説明していた。

 JOCに加盟する全日本柔道連盟(全柔連)では、すでに倫理委員会で園田監督らに聞き取り調査を行った。当事者は事実関係を大筋で認めているという。同監督は「今までは自分の考えでやってきたが、修正する部分は修正していきたい」と話しているが、訴えた選手らは指導体制の刷新を求めているという。

 今月15日のJOC理事会でも「パワハラ、セクハラ厳禁」が、各加盟団体に徹底されている。市原専務理事は「我々は殴られて育った世代だが、時代は変わった。JOCはアスリートを第一、選手の立場でものを考えている」と話した。大阪市立桜宮高の事件を受けてのものだったが、この時にはすでに柔道の問題も知っていたわけだ。文書の提出があったことを認めたJOC幹部は「正確に事態を把握し、指導者への指導を徹底したい」とした。

 全柔連は、今後の大きな目標として「指導者養成」をあげている。斉藤強化委員長も「将来的に見て、指導者を育てることが重要。そこに柔道の未来がある」と話していたが、すべての指導者が目標とすべき代表監督に問題が噴出してしまった。大阪市立桜宮高の事件以来、大きな社会問題ともなる「体罰」だけに、柔道界だけにとどまらず日本スポーツ界全体に影響を及ぼす「大事件」でもある。

 ◆園田隆二(そのだ・りゅうじ)1973年(昭48)9月16日、福岡県大牟田市生まれ。7歳で柔道を始め、船津中、柳川高でいずれも全国優勝。明大進学後の92年、60キロ級で世界ジュニア優勝。93年に世界選手権制覇。95年世界選手権は銅メダル。得意技はともえ投げ、内股、そで釣り込み腰。08年北京五輪後に女子日本代表監督に就任。10年に04年アテネ五輪女子78キロ級金メダリストの阿武教子さんと結婚。163センチ。