<大相撲秋場所>◇3日目◇16日◇東京・両国国技館

 モンゴル出身で東前頭10枚目の逸ノ城(21=湊)が、三役の常連で東前頭8枚目の栃煌山(27)を破り、新入幕で3連勝発進した。立ち合いから後手を踏んだが、左下手から力強い投げで崩して寄り切り。初土俵から5場所目ながら、早くも大物感を示した。初日からの勝ちっ放しは、3横綱と40歳幕内の旭天鵬を加えた5人となった。

 逸ノ城が、末恐ろしさを感じさせた。栃煌山の鋭い立ち合いに、たまらず引いた。相手を呼び込み、完全に受け身。だが、棒立ちながら重い腰で残して左下手をつかむ。「得意な右四つではなかったので、早めに出ようと思った」。右手で相手の首を抱え、左下手投げで崩し、怪力だけで寄り切った。角界初のモンゴル遊牧民出身。幼少期から木を切ったり、水を運んだりして、大自然から蓄えた体力を発揮した。

 横綱を目指す「逸」材だと、しこ名は師匠の湊親方(元前頭湊富士)から素質を見込んで名付けられた。鳥取城北高に相撲留学し、高校5冠。卒業後、角界入りに備え、母校でコーチを務めながら社会人横綱になり、初場所で幕下15枚目格付け出しデビュー。3場所目の夏場所で史上最速タイの十両優勝も決めた。

 6月の新十両昇進祝賀会では「横綱を目指す」と言い切った。新入幕でも、後援者に「三役は当たり前だから、次のパーティーは大関昇進。すぐ来るよ」と言わせるほど大関、横綱への期待は高まるばかりだ。

 目標は「8番勝つことに変わらない」と謙虚な姿勢も備えている。今日4日目も元三役の松鳳山戦。「動きが速いので、つかまえれば大丈夫」と自信もつけてきた。192センチ、199キロもまだ成長中。モンゴル出身のパイオニアだった旭天鵬を「あんな大きなモンゴル人みたことない」と驚かせた逸材が、秋場所の主役になるかもしれない。【鎌田直秀】<逸ノ城駿(いちのじょう・たかし)アラカルト>

 ▽生まれ

 1993年4月7日、モンゴル・アルガンハイ県生まれ。ウランバートルから400キロ離れた大草原。本名はアルタンホヤグ・イチンノロブ。家族は両親と妹、弟。愛称はイチコ。

 ▽相撲歴

 中学、高校時代はモンゴル相撲と柔道の経験が少しだけ。乗馬は生活の一部。モンゴルで開催された選抜相撲大会で優勝し、バットツェンゲル高を中退し、10年3月に鳥取城北高入学。外国人枠の影響もあり、卒業後1年間浪人。13年9月の全日本実業団選手権で個人優勝し、幕下15枚目格付け出し資格取得。得意は右四つ、寄り。

 ▽食

 好物は空揚げと甘い物。嫌いなのはカレー。