<全国高校野球選手権:成田6-3関東一>◇18日◇準々決勝

 平成の鉄腕襲名だ。成田(千葉)の中川諒投手(3年)が、関東一(東東京)との関東対決で3失点完投勝利。計514球の4試合連続完投で58年ぶりの4強に導いた。8回にはダメ押しとなる中堅フェンス直撃の適時二塁打を放ち、投打に大暴れした。第1試合終了後に抽選を行い、20日の準決勝は九州学院(熊本)-東海大相模(神奈川)の勝者と対戦することが決まった。

 灼熱(しゃくねつ)のマウンドを楽しんでいるようだった。1回2死二塁。中川は、4番宮下にスライダーを見せた後、外角いっぱいの141キロで見逃し三振に切って取った。4回、8回は外角のボール球になるスライダーを振らせた。6月の練習試合で打ち込まれ、今大会2本塁打の主砲から3三振。気温35度を超えるグラウンドで、気迫を全身にみなぎらせた。

 「ピンチの方が燃える」が口癖。4回以外は得点圏に走者を許したが、関東一側アルプスの大応援に耳を傾ける余裕があった。小学校6年間はピアノを習い「野球じゃなくてピアノを続けようかと思ってたくらい」熱中した。千葉市・白井中3年の時は、「千葉市音楽発表会」にリーダーとして参加し「ナイスハーモニー賞」を受賞。今でも、寮から実家に帰ると、電子オルガンで流行のJポップを弾いてリラックスする。「今日の応援は良かったですね。乗れました。特にルパン(3世のテーマ曲)が良かった」と、気分よく、テンポよく、投げ込んでいった。

 試合前、「見逃しの三振を取りたい」と宣言していた。17日の北大津戦は「球がうまく指にかかっていなかった」と不調だったが、鍵盤をたたいて養った指先の繊細な感覚で、リリースの瞬間をあらためて意識。最速は142キロを計測し、8三振のうち4つを見逃しで奪った。「キレでコースに決めたかった。決まれば、見逃しで取れる」と喜んだ。

 大阪入り後、三重に住む子どもから大阪市の宿舎に手紙が届いた。野球への取り組み方を問うものだった。中川は「自信をつけるために練習すれば、結果は出るよ」と書き、郵便ポストへ入れた。1年前の千葉大会5回戦千葉黎明戦は、9回に7失点し、13-14で敗れた。「ストライクを入れる自信がなかった」と涙を流した少年は、甲子園のマウンドで大歓声を浴びる投手へと成長した。頂点まであと2つ。「自分が抑えていくしかない」と話すエースの表情は、自信に満ちあふれていた。【今井恵太】