アカデミー賞6部門の「ラ・ラ・ランド」を見てきた。女優志望のミアと、ジャズピアニストで自分の店を持ちたいセバスチャンがひかれ合いながら、互いの夢を追うミュージカルだ。

 ミアはオーディションを何度も落とされる。悪評も耳に入ってくる。挫折を味わい、現実を突きつけられながら、夢とどう折り合いをつけるのか…。この映画を見た人の評価は賛否両論あるが、普段、プロ野球に接する立場から切り取れば「スポ根」のドラマ性も浮かび上がる。ミアは歌う。

 A bit of madness is key to give us new colors to see

 新しい世界を見るためには、ちょっとばかりの狂気がカギだ、と。なるほど、白球を追う男たちも自らの居場所を作ろうと歯を食いしばる。いちずさが欠かせないし、自信にあふれ、時にはハッタリも必要だ。

 さて、先週の甲子園には背番号133がいた。育成選手の西田直斗は2軍の実戦で結果を残したのが認められ、1軍オープン戦に抜てきされる。11日西武戦は代打で空振り三振。翌12日巨人戦も8回無死二塁で代打の機会を得る。右翼ポール際への大飛球は惜しくもファウル。カットしながら好球を待つがバットは空を切った。西田は悔しがる。

 「無死二塁なら二塁ゴロや一塁ゴロで、最低でも走者を進めないと。もちろんヒットを打ちたかったですけど、それ以前の問題」

 高卒5年目を終えた昨年11月は人生の転機だった。力不足のレッテルを貼られ育成への降格を言い渡された。だが大阪桐蔭の恩師、西谷浩一に「育成でもユニホームを着られない選手もたくさんいる。続けられるならトコトンやれ」と言われた。前向きになれる言葉だったという。「ショックでしたが、戦力外になるんじゃないかとも思っていた。少しでも可能性があるから残してもらえているのだと思う」と言い聞かせる。

 昨季よりも強振した鋭い打球が増えた。「去年まではコロコロ変えてバラバラになった。いまは、この形でやってダメならという気持ち」。オフは左足1本で立つ練習を繰り返した。右足を上げて打ち始め、間合いも取れるようになった。

 「同学年が1軍で活躍しているけど、自分は全然負けているつもりはない」

 高山、坂本ら同い年が台頭。自身は13年を最後に1軍と無縁だ。いつか、どこかで…。阪神唯一の育成選手もまた数少ないチャンスにのめり込む。(敬称略)

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