<中日1-0巨人>◇17日◇ナゴヤドーム

 8回表。期待と焦りの両極端な空気が、ナゴヤドームに充満していた。巨人は中日チェンの前に、ここまで毎回3者凡退。先頭のラミレスの飛球をファーストの小池に背走して好捕されると、「完全試合」という大記録達成が現実味を帯び始め、中日ファンの期待感がさらに色濃くなった。そんな中、打席に入ったのが小笠原道大内野手(37)だった。

 巨人にとって安堵(あんど)の瞬間を、ガッツのフルスイングがもたらした。チェンの83球目、フルカウントからのスライダーを、中前へと運んだ。球団初の不名誉記録である完全試合と、02年8月1日中日戦の川上(現ブレーブス傘下2A)以来9度目のノーヒットノーランの両方を、一振りで寸断した。それでも表情を崩すことはなかった。「(チェンは)いいところに投げていた。テツ(内海)がいい投球をしていたから、何とかしたかった」。負ければ意味はない-。厳しい表情が、そう物語っていた。

 チェンの投球は素晴らしかった。だが、対策は講じていた。左の高橋由を外し、右の大村と高橋信を先発で起用。ずらりと並べた右打者が安打を打てず、6回表の攻撃前に円陣も組んだが、小笠原と阿部の2安打に終わった。長野は「3打席で4球だったので、(球数を)投げさせる工夫をしなきゃいけなかった」と悔しそうに振り返り、原監督も「いいピッチングをされましたね」と脱帽するしかなかった。

 それだけに、小笠原の1安打は価値がある。8月は打率3割4分、3本塁打と復調が著しい。だが「切り替えて明日、頑張ります」と、リセットしてバスに乗り込んだ。勝率は一夜で5割に逆戻りしたが、順位は2位のまま。小笠原の一打は巨人のダメージを最小限に食い止めた。【浜本卓也】