今季の巨人は故障者知らずと言っていい。開幕からの離脱者は、試合中のアクシデントで負傷したボウカーと高橋由だけ。コンディション不良で出場選手登録を抹消された選手は1人もいない。すでにボウカーは交流戦終盤に復帰し、21日の中日戦からは高橋由も戻る。リーグ戦再開後も走りそうな巨人の「頑健さ」の秘密に潜入した。

 ノックした。「は~い」という穏やかな声を確認してから、ドアノブを回して潜入した。ゆったりと横たわる巨人代打の切り札・石井義人内野手(34)がいた。ベッドの上…ではない。マットの上だ。

 2月。キャンプ中に「睡眠」の座学があった。寝てる間も気を配れとの狙いだった。午後10時以降、携帯電話の光る画面を見つめてはいけない。トイレに行く際、電気をつけてはいけないなどなど。石井のマットも大切なアイテムだった。

 石井

 オレはもともと腰痛持ち。硬めのマットを敷いたら治まるし、よく眠れる。でもこれ、自前だよ。

 ん?

 自前?

 「チームが用意してくれたものもあるんですけど、慣れてるから」と続けた。現場は今季、大きな体に合うオーダーメードの高反発マットを用意した。安眠のため自宅に持ち帰る選手は多い。

 巨人に移籍して2年目の石井には、驚いたことがある。「みんな本当に意識が高い。最初はついていくので精いっぱい。とにかく朝が早い。何してるのか見てると…、ストレッチ。普通、早出は特打だよ。でも巨人はストレッチをする。しかもメニューを自分で考えている」。

 思い思いに体をほぐす様子を、トレーニングコーチが見守る。気付いたら助言するレベルにまで成熟している。内藤コーチは「コンディションに“ポパイのほうれん草”は、ない。睡眠、ストレッチ。当たり前を毎日、当たり前に行う継続がいかに大切か」と言う。

 例えば、投手は一般的に、降板直後にアイシングをして、試合後にストレッチをする。野球界の慣例だが、コンディショニングのセオリーからすれば、順序は逆になる。この知識を教える。各人にはルーティンがあり強制しない。プロである以上、自己管理を求める。ちなみにルーキー菅野は、降板後すぐにストレッチをする。

 4月25日DeNA戦でのボウカーの右手骨折後、塁上の走者には手袋の携帯が義務付けられた。内藤コーチは「当たり前のことを徹底すれば、試合中のケガも防げることが多い。これが結構、難しい」と加えた。

 石井が眠りに落ちる前に聞こう。「僕は原監督に感謝している」とつぶやいた。「危ない、と思う前に手綱を引いてくれる。『練習しすぎるな。今、無理するところじゃない』と。ありがたいです」。船頭の千里眼も見逃せない。1人も離脱させずに、巨大船が長い航海を進む。【宮下敬至】