「肉は、大阪」-。そう話すのは、二子山親方(元大関雅山)だ。昨年に東京・江戸川区で自身の焼き肉店をオープンし「肉は大阪から仕入れる」というから、本場の味に早くも期待は高まる。

店の外観。最寄りは千日前線の鶴橋駅。顔写真は二子山親方
店の外観。最寄りは千日前線の鶴橋駅。顔写真は二子山親方

 そんな親方が現役時代から春場所では必ず通い、舌鼓を打つ名店が大阪・天王寺区にある「焼肉・冷麺 一龍」だ。生野区で創業して55年。現在の店舗は移転6年目で、現役時代は部屋宿舎の近かった武蔵丸(現武蔵川親方)、出島(現大鳴戸親方)や浜ノ嶋(現尾上親方)らも通っていたという。

希少部位のイチボとカイノミ。絶品
希少部位のイチボとカイノミ。絶品
一緒にいただく野菜も厳選された新鮮なもの
一緒にいただく野菜も厳選された新鮮なもの

 肉は厳選された黒毛和牛で、創業以来、手切りというこだわり。これだけでも味に差が出るという。カルビ(990円~)タン(部位により590円~)ハラミ(1290円~)など定番メニューもお手ごろで、どれも柔らかくてジューシー。希少部位も多く、盛り合わせ(2980円~)やコース(4000円~)もあり、気軽に本物の味を堪能できる。ホルモン類も上ミノ、ツラミ、しびれ、ウルテ……。しょうゆやぽん酢も良し、歴史に裏打ちされた特製ダレも良し。新鮮な野菜やご飯もの、自家製キムチなど一品(逸品)料理が豊富なのもうれしい。

カルビと中落ち壷漬けカルビ。伝統のタレに箸が止まらない
カルビと中落ち壷漬けカルビ。伝統のタレに箸が止まらない

 だが、本当にすごいのはここからだ。店を出すほど肉好きの二子山親方が、こう言った。「ここは冷麺が、抜群にうまいんです。僕は今まで食べた中で、ここが一番おいしい」。店の肩書にもある冷麺。なんと、麺は注文が入り次第、その都度手打ちで提供するから驚きだ。今回は特別に厨房(ちゅうぼう)にお邪魔させていただき、名物の「手打ち冷麺(中、890円)」を作る行程を見せてもらった。

 店主の木村幸男さんは、まさに職人。そば粉や重曹などを独自の配合で、熱湯を注いで手早くこねていく。「ゴルフの飛距離が出る秘訣(ひけつ)」と笑いながら、腰を入れた熟練の手つきであっという間に生地を練り上げた。

慣れた手つきで一気に生地を作り上げていく店主の木村幸男さん。使用するのはそば粉、重曹、でんぷんのみ
慣れた手つきで一気に生地を作り上げていく店主の木村幸男さん。使用するのはそば粉、重曹、でんぷんのみ
あっという間に生地の完成
あっという間に生地の完成
生地を機械にかけ、釜でゆでる
生地を機械にかけ、釜でゆでる

 こだわりは、これで終わらない。釜で手早くゆで上げると、キンキンに冷やした氷水の中で締めながら麺をまとめていく。「冷麺も伸びてしまうんです。だから、できるだけ手の熱が伝わらないように、触らない」(木村さん)。器に盛り付けると、麺に触れることなく具を乗せ、牛骨と鶏がらでダシを取った冷たいスープを注いで完成。ここまで、わずか3分ほどで仕上げてしまった。

氷水で一気にシメる。急いで器へ運ぶときには、もう麺はまとめられている
氷水で一気にシメる。急いで器へ運ぶときには、もう麺はまとめられている
流れるような手つきで手打ち冷麺の完成
流れるような手つきで手打ち冷麺の完成
透き通ったスープはキレがある。手抜き一切なしの逸品
透き通ったスープはキレがある。手抜き一切なしの逸品

 親方は現役時代、これでもかと肉を平らげた後、シメで冷麺(大)を3杯食べていたんだとか。打ちたての麺はモチモチでコシがあり、記者も(中)をあっという間に完食。初めての手打ち冷麺は格別で、とりこになる味でした。次は3杯、食べます。

 ちなみに、親方の営む焼き肉店「焼肉 みやび山」の冷麺は「いたって普通です(笑い)」(親方)だそう。それでも現役時代に名古屋で通った店が閉店する際、特別におじやのレシピを教えてもらうなど、力士人生が詰まったメニューは魅力です。【桑原亮】


◆焼肉・冷麺 一龍

住所:大阪府大阪市天王寺区小橋町3-11

電話:06・6764・6646