今年も新日本プロレスのG1クライマックスが開幕した。過去に多くのスターを生み出した大会で、今年もスターが生まれそうだ。20日の開幕戦は、北海道・札幌の北海きたえーるで超満員の観衆を集めて開催された。その大会のメーンで、飯伏幸太(33)が輝いた。エース棚橋弘至(38)に惜敗したが、まぎれもなく次代のスター誕生を予感させた名勝負だった。

 抜群の身体能力を誇る2人の戦いは、息つく間もない技の応酬だった。棚橋がドラゴンスクリューで飯伏の右膝を集中攻撃すれば、飯伏は得意のキックを棚橋の胸板にたたき込む。序盤は棚橋の猛攻を耐えていた飯伏が、場外の棚橋へコーナートップから空中ダイブ。さらにコーナーに上った棚橋をドロップキックで、場外に蹴り落とすなど、中盤から終盤にかけて会場のボルテージはドンドン上がっていった。

 15分過ぎ、勝負を決めようと棚橋がハイフライフローを仕掛けたが、飯伏がヒザを立ててブロック。棚橋の攻撃で痛めた右ヒザへの衝撃もものともせず、勝利への執念を見せた。何としても勝ちたいという気持ち。しかし、飯伏の決め技、フェニックス・スプラッシュは、寸前でかわされた。コーナートップからのフランケンシュタイーナーもカウント2で返された。最後の気力を振り絞った掌底合戦をかわされ、ドラゴンスープレックスを食らうと、最後はハイフライフロー2発で、ついに3カウントを聞いた。

 負けて、リングの上に突っ伏した飯伏。棚橋からは耳元で「またな」とだけ言われた。それでも、棚橋はこの試合でやがて訪れるであろう、新時代の到来を見ていた。「初めて見に来た人のハートを1番つかむ。オレにないものを持ってるね。ハートもあるし、志もある。飯伏がいれば、プロレス界はかなり安泰かな」と試合後、棚橋は飯伏をたたえた。

 1・4東京ドームでの中邑戦、4月のAJスタイルズとのIWGPヘビー級選手権、そしてG1の棚橋戦と、3試合とも敗れはしたが、そのすべてにおいて名勝負の高評価を勝ち得た。今年のベストバウトとの評価も高い試合をした中邑は「自分が求めていた1つの完成形がそこにあった。試合が終わったときの喪失感。心も体も喪失感を感じた」と飯伏との試合を振り返る。新日本でも頂点に立つ棚橋と中邑に認められた飯伏。ヘビー級転向から1年、33歳と脂ののりきった男は、これからどこまで上っていくのか。G1はまだ始まったばかりだが、棚橋との試合で、飯伏が近い将来、IWGPヘビー級のベルトを巻く姿が、頭の中に浮かんだ。【プロレス担当=桝田朗】