全日本プロレスの両国国技館大会で、グレート小鹿(74)に会った。同大会に、自分が創設した大日本プロレスの選手たちが出場し、それを視察に来たのだという。所属の世界タッグ王者の関本大介、岡林裕二組は5度目の防衛に失敗した。しかし、2人は、今や全日本でも人気選手で興行には欠かせない存在だ。

 全日本やノア、W-1、リアルジャパンに加え、その他のインディー団体でも関本を始め、大日本の選手は引っ張りだこだ。その人気と実力で、各団体の興行を支えているといっても過言ではない。大日本からは、WWEでも一世を風靡(ふうび)したTAJIRIや、昨年、新日本でブレークした本間朋晃ら、次々と有望な選手が育っている。グレート小鹿は、現在でもリングに上がるが、若手を育てる名伯楽でもある。

 「昔は、ゲンコツで怒鳴って、練習をやらせていたけど、今は違うよ。オレたちの時代は、スクワット1日1000回とかやらされていたけど、今なんか3回からだよ。厳しくしたって、辞めちゃうもん。若い子は褒めて、たとえ辞めても、プロレスを嫌いにならないように、お客さんと思って大事に育てているんだよ」と小鹿は笑った。

 指導法を改めるきっかけになったのは、99年に関本が入ってからだという。野球の名門、高知・明徳義塾高の野球部在籍当時からプロレスラーを目指した関本は、大日本に入門してからも、率先して練習をやった。新人につられて、先輩たちも小鹿に言われなくても練習するようになった。今では、スカウトしなくてもプロレスが好きな若者が入ってくるようになった。

 「練習は、関本に任せている。彼は黙っていてもやるから、それにつられてみんな一生懸命に練習していますよ」と小鹿。新しい選手が入ると「おい、関本、練習見てやってくれ」で、1年もすると、見どころのある若手が育ってくる。

 小鹿は若い選手にプロレスだけでなく、リングの設営や会場の掃除など、すべてを経験させる。大日本では、地方を回る際に、自前のリングを持ち込み、設営から片付けまで、すべて選手とスタッフでまかなう。長年やっているデスマッチ路線と、生きのいい若手の台頭で後楽園でも、ほぼ満員の集客力を誇る。

 「今、ボクが考えているのは、失敗しても笑って直してやる練習場の雰囲気をつくりたいということ。練習場に笑いがあってもいいからね」。長年ファミリー経営でやってきた小鹿らしい言葉だ。先月28日に元全日本、ノアに所属した永源遥さんが70歳で急死した。元全日本の仲間たちが次々と旅立っていくなか、小鹿はまだまだ元気だ。【桝田朗】