<プロボクシング:WBA・IBF・WBO3団体世界ヘビー級統一戦12回戦>◇2日(日本時間3日)◇ドイツ・ハンブルク◇4万5000人

 クリチコ兄弟が世界のヘビー級を制圧した。IBF、WBO統一王者ウラジミール・クリチコ(35=ウクライナ)が、WBA王者デビッド・ヘイ(30=英国)との統一戦を制し、3団体統一王者に就いた。体格差で上回るクリチコが左ジャブを軸にペースをつかみ、ヘイのスピードを圧力で封じると、11回には左フックでダウンを奪取。大差の3-0判定勝ちで3団体をベルトを手にした。WBC王座は兄ビタリ(39=ウクライナ)が保持しており、主要4団体王座を兄弟で独占する初の偉業を成し遂げた。

 クリチコ弟の独壇場だった。左ジャブを軸に自身の距離を保ち、鋭く伸びる右をヘイにヒットさせた。身長で約9センチ、リーチで約8センチ上回るウクライナの巨人は両拳を打ち下ろし続けた。強く圧力をかけ、6度も敵をスリップさせた。11回には左フックでダウンも奪った。KOできなかったが、最大で10ポイント差も出た文句なしの3-0の判定勝ちだった。

 高いKO率を誇る王者同士の激突は世界150カ国以上でテレビ中継されるほど注目された。クルーザー級で3団体を統一したヘイはヘビー級転向後、身長213センチのワルーエフ(ロシア)を下してWBA王座を獲得。「クリチコを倒せる」と一番予感させた最強の男さえも、クリチコの敵ではなかった。

 うなだれたヘイを横目に4万5000人の観衆へ3本のベルトを誇示した。セコンドの兄ビタリもWBCベルトを手に並び立った。兄に「素晴らしい戦いだった」とねぎらわれた弟は「兄弟でヘビー級王座を獲得できたことを祝いたい。予想よりも特別な思いはないが、兄弟でトライしてきたことだから」と、掲げた主要4団体のベルトを眺めて笑みをこぼした。

 96年アトランタ五輪スーパーヘビー級で金メダルを獲得し、その同年11月、プロデビューした。00年にはWBO王座を獲得。不調期もあったが、04年10月のウィリアムソン戦から、ヘイ戦まで14連勝。博士号を持ち、英語、独語など5カ国語を操るインテリ派でもある。兄ビタリも05年に右膝を痛め、3年間引退していたが、弟の活躍を刺激にカムバックし、08年の復帰戦で現在のWBC王座を奪い、目下6度防衛中だった。

 ウラジミールは「50回目のKO勝利で祝いたかったよ」と余裕の表情を浮かべた。フォアマン、タイソン、ホリフィールド、レノックス・ルイスといった黒人ボクサーが主流だったが、05年以降はクリチコ兄弟が、ヘビー級の勢力図を米国ではなく東欧、黒人ではなくインテリ派の白人というイメージに塗り替えた。兄弟対決を望まない2人。最大の敵ヘイを下した今、クリチコ兄弟が世界のヘビー級に君臨し続けそうだ。