横綱日馬富士(31=伊勢ケ浜)が大関琴奨菊を下し、1敗を守った。立ち合いで迷いながらも素早い攻めで翻弄(ほんろう)し、上手出し投げで9勝目。右肘負傷による2場所休場明けで徐々に調子を上げ、代名詞の速攻相撲がよみがえってきた。1敗だった大関稀勢の里、平幕の松鳳山、高安は相次いで敗戦。全勝の横綱白鵬を1人、追いかける。

 スピード感あふれる相撲が、よみがえった。日馬富士は左の張り差しを琴奨菊に見舞うと、素早く上手を引いた。間髪入れず左にまわり、あっという間に土俵の外へ。「立ち合い、ちょっと迷ったな。頭から行くか、張って中に入るか」。最後の仕切りで後者を選び、今場所自己最短の1秒4で危なげなく退けた。「体が反応してくれた」。まだ万全でない右肘を、全身でカバーした成果だった。

 名古屋場所初日に右肘を負傷。2場所休場中は、肉体改造に努めた。毎日2、3時間、ジムで汗を流すのは日課。福岡入り後も続けた。場所中は入念なストレッチで体をほぐし「すぐ体が硬くなっちゃうんですよ。若いころは朝から稽古してたけど、今はそんなにできない。体を休ませて、1番に集中する」。取組後はトレーナーから左腕にマッサージを受け、回復を促した。

 心の健康にも気遣ってきた。場所中はお気に入りのお香をたいて、起床後、朝稽古、場所入り前、取組後、就寝前と1日5度も煙を浴びる。「いいにおい。そう思いませんか? リフレッシュできますよ」。普段より重圧がかかる、休場明けの本場所。そこで戦うための準備は、できていた。

 直後の取組で白鵬の猫だましが飛び出したが「見てなかった」と言った。他人のことは気にしない。「体がよく動いてくれている。あと5日間、全身全霊で頑張ります」。独走は許さない。強い日馬富士が、帰ってきた。【桑原亮】