横綱日馬富士(31=伊勢ケ浜)が、2年ぶりに賜杯を抱いた。大関稀勢の里に寄り切りで敗れたが、1敗差の横綱白鵬、平幕松鳳山も敗戦。7度目の優勝が決定した。2場所休場を乗り越え、今なお成長しようともがいてきた2年間。横綱の先輩でもある師匠、伊勢ケ浜親方(元旭富士)の魂にならい、綱の意地を示した。

 日馬富士は、理事長代行の八角親方(元横綱北勝海)から受け取った賜杯の重みを、じっくり確かめた。「耐え忍んで、毎日努力して、この日がまた来て良かったです」。稀勢の里との一番はまさかの敗戦。鋭い当たりも、かいなを返されると133キロの体が浮いた。寄り切られると、唇をかみしめた。白鵬が敗れた瞬間も実感が湧かず「俺、優勝だよな?」。やっと笑みがこぼれた。

 横綱で12場所ぶりの優勝は、1場所15日制の定着以降6位タイのブランク記録。思い出すのは苦悩ばかりだ。成績が振るわず、周囲の視線は躍進した弟弟子、照ノ富士に集まった。夏場所後に右肘を手術し再起を期したが、名古屋場所初日に強打し2場所休場。「言い方は変だけど(休場に)慣れちゃったな」と自虐することも。だが、腐らなかった。

 味気ないリハビリの合間、初心に帰って大好きな絵画に没頭した。2年前もそうだった。相撲を忘れ、キャンバスと向かい合う日々。最高の気分転換だった。09年から母国モンゴルで心臓病に苦しむ子どもたちを救うNPOの活動に協力。チャリティーへの関心も高く、将来的には絵画を通して力になりたい思いもある。ボランティア活動に積極的な師匠の精神を引き継ぎ、土俵外からも横綱としての務めを果たしてきた。

 幕内最軽量からの脱却へ、努力も怠らなかった。秋場所中、東京・江東区の部屋のトレーニング室で師匠と“特訓”に励んだ。「これから太るには、筋肉を大きくするしかない」(親方)。筋肉を早くつける鍛え方、呼吸法-。一から直伝された。「体重を聞かれると自信なくしちゃう」とおどけるが、愛飲するプロテインは体重増加が目的。場所中は毎日4人前のしゃぶしゃぶを食べ、食事面でも意識してきた。その努力が、実を結んだ。

 賜杯を手にする景色は、少しだけ違った。目をかけてもらった北の湖理事長は、2日前に死去。「まあ…最後まで務めを果たすことができて、良かったです」。命懸けで戦った15日間。土俵を盛り上げた姿を、理事長も遠くから見ているに違いない。【桑原亮】